玉座の間へ
ゲーランの策が功を奏したようで城内にはほとんど敵はおらず、不気味なほどに静かだった。
「で、ジョセフの野郎はどこにいるか目星は付いてんのか?」
「正確な場所は分かっていないが、玉座の間か、その奥にある王族の部屋のどこかにいると予想している。」
「つまりまずは玉座の間を目指せば良いって事か。」
「よっしゃあ!待ってろジョセフ!」
「待つのはジャックだ!一人で先に突っ込もうとしないでくれ!」
不要な戦闘を避けて場内を進みながら、ジョセフの居場所について兵士たちと話し合う。
彼らはこの先にジョセフがいるであろうとの見解を述べると、それを聞いたジャックが我先にと進もうとする。
慌ててそれを止めると、彼は不満げに口角を下げて反論して来た。
「でもよ、これだけ敵がいないんだぜ?それならとっととふん捕まえちまった方が良いんじゃねぇか?」
ジャックの言わんとする事も理解出来なくはない。
しかし敵の本拠地でその突撃思考は悪手だろう。
もう少し慎重になるべきだ。
そう思いながら俺は潜入前に考えてきた説得の言葉を伝える。
「…………ジャック、よく聞いてくれ。鍛錬を積んだとはいえ、俺はジャックみたいに強くないし、簡単に死ぬぞ?今は敵がいないみたいだけど、不意打ちでもされたらあっさり死ぬぞ?確かにジャックは『差し伸べる手』の為に厳しい決断を下す事もあるだろうけど、それが今なのか?」
ジャック一人なら死ぬ確率は非常に低いだろう。
罠に嵌められても生きて帰って来そうな男だ。
しかし俺は違う。
割と簡単に死ぬと思う。
だからこそ、俺は自分を使ってジャックの手綱を握る。
彼ならば必要でも無いのに仲間を危険に晒してまで突撃はしない。
「ぐっ……分かった、分かったよ。お前の言う通り、今は仲間を見捨てる時じゃねぇ。」
ジャックは俺の言わんとした事を認めて歩みを止めた。
胸を撫で下ろして安心し、改めて足並みをそろえ、俺たちは進んで行く。
何事もなく玉座の間の前まで至り、そこには二人の守衛の兵士がいたが、
「む、なんだ貴様らは!ぎゃあっ!」
「し、侵入者、ぐわぁ!」
「この程度か?呆気ねぇな!」
彼らはジャックの攻撃により一瞬にして地に伏せる。
ほんの一撃で鎧ごと敵を切り裂いて、増援を呼ばせる間もなく絶命へと至らしめたのだ。
あっという間の決着に見ている事しか出来なかった俺たちは、彼の強さに対して感嘆を漏らすほかなかった。
「分かってはいたが……」
「強い……」
「どうした?さっさと進もうぜ。」
一方のジャック本人は何という事も無いように振り向き、先へ進むことを促す。
その意見に従い、俺たちは玉座の間へと足を踏み入れた。
「っ!」
その時、何本かの短剣が飛来する。
ジャックは瞬時に反応し、剣を振るってそれを弾き飛ばすが、十人程度いた兵士たちの半数は額を貫かれ、声を上げる事も出来ずに絶命した。
「おや、仕留め損なったか。」
「お、お前は……!」
玉座の前には黒い軍服のような装いの男たちが立っていた。
「ニコライ!」
「こんばんは、反逆者のクズ共。」
左右に二人ずつ部下を侍らせて挨拶をしてきた男の名はニコライ。
URPのリーダーであり、かつてタガミ先輩を連れ去った人物だ。
彼は笑みを浮かべながら、俺たちを出迎えた。