緊急事態
王国軍の陣を離れ、マスカの堀に利用されている河の上流へと向かう。
しばらく進むと、険峻な地形が顔を出す。
そこには天然の物と思しき洞窟があり、中へと入る。
奥まで進むが壁があり、それ以上先には進めなさそうだ。
「行き止まり?」
「まぁ見てろ。」
視線を上に向けると、壁面の上部には空間があり、まだ先がある様だ。
兵士が鍵縄を使って壁を昇り、縄梯子を下す事で進行を再開する。
更に洞窟を進み、最奥に設置された梯子を昇り、頭上の石畳を退かすと、そこは埃を被った荷物が積まれた倉庫だった。
「よし、市街に入れたな。夜間だから人目は気にしなくて大丈夫だが、それでも気を付けて進むぞ。」
ゲーランに先導され、外に出て市街を密かに進み、潜入部隊は人の気配が無い空き家に入る。
これまで目撃されていないので、計画は順調化に思われたが、思わぬ事態が発生する。
「第四鉱山組合の連絡役とはここで落ち合う予定だそうだが、誰もいねぇなぁ……。ここで間違いないんだな?」
「は!間違いありません!」
「王国軍がマスカを包囲してるのは市民にも伝わってるはずだ。これであいつらが来ねぇってなると、何か問題でも起きたのか…………?もうしばらく待つぞ。それで誰も来なかったら撤収だ。」
集合予定地点には誰もおらず、ゲーランも部下の兵士に確認をする。
しかし場所自体は間違っておらず、ゲーランは顎に手を当てて考え込む。
そして彼は待機命令を下し、空き家に静寂が訪れる。
その静寂を破ったのは、
『バァン!』
乱暴に開け放たれたドアだった。
空き家の中にいた俺たちは一斉にそちらを見ると、そこには肩で息をしながら額に汗を滲ませ、いかにも焦っている様子が見て取れる男がいた。
彼は僅かに息を整え、こちらに問い掛ける。
「はぁ……はぁ……あんたら、王国軍か!?」
「おう、そうだ。お前、第四鉱山組合の奴だよな。どうした、そんなに慌てて?」
「URPだ!URPに不穏分子として疑われて襲われてる!オレはどうにかここまで来れたが、このままじゃ皆が!」
ウラッセア共和国治安維持委員、通称URP。
普通の兵士たちとは一線を画すようなヤバい雰囲気を纏った奴らであり、かつてタガミ先輩を連れ去った連中だ。
特にニコライと言うURPのリーダーらしき男は、かつてリエフから逃れる際、アニエスが隠れていた樽に一切の躊躇いなくナイフを投擲するような男だ。
能力の点でも、人格の点でも、厄介極まりない。
「マズいな……市街の煽動が出来なきゃ、兵士が分散しねぇ。王城に攻め込むなんて自殺行為だ。」
「どうしますか、将軍。」
「仕方ねぇ。ちょっくら行ってくるぜ。お前、案内してくれ。俺が指揮を執る!それとお前ら、お前らはそのまま王城に向かえ。騒ぎが起きたら隙を突いて攻め入るんだ。」
「え、ちょ、ゲーラン!?」
第四鉱山組合の現状を聞いたゲーランは眉をひそめる。
そして兵士に問い掛けられ、即座に判断を下し、止める間もなく連絡員と共に出て行ってしまった。
え、俺たちだけで王城に行かなくちゃならないのか……?