幕間:スティールマン 後編
その後、ジョセフはカルヴァニ村で日々を過ごした。
「この川に沿って下って行くと、エルソルってぇ街があるから、そこにあるマウリ商店でこの狐の皮を売って来て下せぇ。」
「エルソルのマウリ商店だな。分かった。」
「それと、オリーブとチーズの買い付けも頼んます。」
「オリーブとチーズか、任された。」
春を越え、
「この木の実は食べれる木の実、こっちは食べれない木の実でさぁ。」
「なるほど。この世界に来た初日、食料も無かったからこれを目にして食べるか悩んだものだ。」
「危なかったですな、ジョセフさん。それを食べてたら意識を失ってしばらくは目を覚まさなかったでしょう。」
「見知らぬ森の中で倒れるなど冗談じゃない。食べなくて正解だったな。」
夏を越え、
「ドンジー!ジョセフー!そろそろ休憩にするぞぉ!」
「おぉう!分かったぁー!」
「ふぅ、それにしてもよく森の中で耕作出来る土地を見つけたものだ。」
「ここは見つけたんじゃなくてご先祖様が切り開いた土地でさぁ。何代もかけて広げて来たって、昔、親父が言ってましてなぁ。」
「この耕作地を……。」
秋を越え、
「ジョセフおじさん!おじさんのいた所の話を聞かせてよ!」
「あぁ、良いぞ。私はとある国で夢の為に頑張っていた時の話をしてあげよう。」
「夢?おじさんの夢ってなぁに?」
「私の夢、それは誰もが豊かに、平等に幸福を享受できる世界を作る事さ。」
「???むずかしくってよく分からない!」
「はっはっは、そうか。だが、いつか分かる日が来る。」
冬を越えた。
しかし村の一員として暖かく迎え入れられ、平穏な日々を送っていた彼に転機が訪れる。
カルヴァニ村で過ごし始めてから四年後。
「おーい、ジョセフー。」
「どうした、ジニー?」
「ちょいとエルソルまで買い物を頼まれてくれないか?」
「分かった。何を買ってくればいい?」
「生誕祭に向けてワインを何本か頼む。」
「ワインだな。それじゃあ行ってくる。」
ジョセフは村人に頼まれ、エルソルまで買い物に行く事になる。
道中、特に何事もなくエルソルに着き、ワインを購入してカルヴァニ村へと戻る。
村に到着する頃には、夕方になっていた。
「ふぅ、日が沈む前に帰って来れたな。…………ん?」
この時間、普段ならば村には明かりが点いていたはずだが、その明かりはどこにもない。
不審に思いながら村の中を見渡すジョセフ。
しかしそこには一つとして人影は無い。
「おーい!ドンジー!ジニー!帰ったぞー!」
ジョセフが声を張って呼びかけるも、返事は無い。
「これは……!?」
更にジョセフが注意深く周囲を見渡すと、そこには血痕があった。
黒ずんだそれは一見、影の様にも見えたが、間違いなく血痕であった。