正直怖いです!
ジャックの部屋を後にし、仕事中のアニエスの下にフリードを案内する。
この時間ならば、どこかの部屋で掃除をしているはずだ。
当たりを付けて部屋を探していくと、程なくして探し人は見つかった。
そしてフリードは彼女に従軍依頼の話をする。
「以前お話してもらった件ですね!はい、任せて下さい!」
「助かるよ、ありがとう。」
「やっぱり話を通してあったんだな。」
予想通り、あっさりとアニエスはフリードの話を承諾する。
加えて、以前話したと言っているように既に根回しはしていたようだ。
しかし彼にも計算外の事はある。
「リョータさん!フリードさん!早速行きましょう!」
「……別に今すぐ行くと言う訳じゃないからね。」
「進軍開始は四日後を予定してるから、二日後にフリードの幕舎に来るようにって話をさっきしてたな。で、そっからは王国軍と行動すると。」
「明後日ですね!分かりました!」
アニエスは気合十分と言わんばかりに雑巾を放り出して出発しようとしていた。
フリードはすぐに出発しようとするとは思っていなかったようで、一瞬遅れて引き止める。
俺が補足をする事でアニエスは日程を理解した。
「それじゃ、僕は用事があるから失礼するよ。」
「はい!」
「あぁ、また明後日。」
フリードは話が終わると忙しなく『差し伸べる手』の拠点を出て行き、俺とアニエスはそれを見送る。
「それにしてもアニー、よく戦場に付いて行く事を了承したな。」
「私がお役に立てるのなら、どこへでも行きますよ!」
「立派なんだな……。」
何の躊躇いもなく従軍を決めたアニエスに感心し、思ったことを伝える。
彼女は笑顔で答えるが、それはとても勇気ある事だと感じた。
敬意を込めて立派だと言うと、彼女は照れ隠しからか、本音を語る。
「でも怖くないかと言われたら、正直怖いです!」
「戦場が怖いところだって理解して、それでも自分の信念に基づいて行動出来るなんて凄いと思うぞ。」
「そ、そうでしょうか?えへへ……!」
しかしその本音は、より一層アニエスの崇高さを感じさせるものだった。
それを伝えると彼女は照れたようにはにかんで頭を掻く。
「でもでも、そう言うリョータさんだってフリードさんに付いて行くじゃないですか!リョータさんも凄いですよ!」
「そうかな?確かに俺も皆の役に立てるのは嬉しいけど、実はフリードが頑張ってくれれば、それだけタガミ先輩を助ける事に繋がるって打算もあるんだ。」
「それも誰かの為を思っての事じゃないですか!リョータさんの意見で考えるなら、リョータさんも立派ですよ!」
「ありがとう、アニー。」
アニエスもまた、俺の事を立派だと言ってくれた。
打算ありきの本音を話しても、尚。
普通の、特に得意な事がある訳でもない人間の俺が、誰かに認められるのは嬉しい事だ。
もしかしたら承認されたいと言う欲求も、役に立ちたいと言う思いに繋がっているのかも知れないな。
でもそれも悪い事じゃないと思える。
それが誰かの為になるのなら。