信仰と士気
アニエスも連れて行く。
そのフリードの発言に俺とジャックは驚愕を隠せなかった。
「いやいやいやいや、待てフリード。なんでアニエス?俺以上に訳が分からないぞ?」
「そうだぜ?こう言っちゃなんだが、アニーの嬢ちゃんは腕っぷしも無けりゃ頭もキレるって訳じゃねぇぞ?」
「ジャックはともかく、リョータなら分かるんじゃないかな。」
「え、俺が?」
俺もジャックも困惑しながらフリードに問い掛けるが、彼は俺ならば分かると言う。
頭に疑問符を浮かべて困惑する俺を他所に、フリードは笑みを浮かべて急かすように語り掛ける。
「ほらほら、考えて、頭を働かせて、答えを導き出すんだ。」
「えぇ……明るい人柄で周りの雰囲気を良くするとか?」
「ははは、それも悪くは無いね。ところで本気でそれだけの理由で彼女を採用すると思っているのかい?」
いきなりそんな事を言われても分からなかったので、とりあえず思いついた事を言ってみたが、違ったようだ。
表情こそ笑顔のままだが、フリードにちゃんと考えろと言いたげな目で見られてしまった。
俺ならば分かる情報がある……
逆に言えばジャックには分からない事……
俺とフリードとアニエスが一緒にいた状況……
もしかすると、アレだろうか。
「…………そう言えばアニエスとフリードが初めて会った時に『教会と王国軍の協力の象徴』的な話をしていたけど、その話関連か?」
「その通りさ。僕はあの日以降、教会との協力体制の噂を流して寄付を募ったりしていたし、信仰と言うのも士気を上げる点では馬鹿に出来ない効力があるからね。」
そんな事をやっていたのか。
しかしそういったう噂が流れているのなら、ジャックが把握している可能性も……
いや、あくまでも『教会が王国に対して協力する姿勢を示した』と言う噂が広がり、アニエスの名前が挙がっていなかったのであれば、ジャックが把握していなくてもおかしくは無い。
そしてアニエスも連れて行く事で噂が真実であったとするつもりでもあるのだろう。
「我々が指揮する兵士たちにもウハヤエ教の信徒は実に多い。実際にウハヤエ教のシスターであるアニエスが共に戦場に立つとなれば、彼らの士気は間違いなく高まるだろうしね。」
「アニエスを戦わせるつもりなのか!?それは流石にダメだろ!」
フリードの発した『共に戦場に立つ』と言う言葉には反応せざるを得ない。
確かに彼女は転生者ではないだろうし、正式な『差し伸べる手』の一員ではないかも知れない。
しかし彼女は俺にとっては既に仲間であり、戦わせるなんて許容しがたかった。
それに対してフリードは呆れながら回答する。
「そんなわけないだろう。あくまでも君たちと同じく、軍と共に行動すると言うだけだよ。と言うより、碌に訓練を受けていない人間に武器を持たせて戦わせようとしたところで邪魔にしかならないからね。」
「まぁ、そりゃそうだろうな。そんな奴がいたら足手まといもいいところだろうぜ。」
「あくまでも彼女には戦いで疲弊した兵士たちに神の教えを説いて精神的支えになってもらうだけさ。」
どうやら比喩表現だったようだ。
あくまでもアニエスのシスターとしての働きに期待していたようだ。
それを聞いて俺は胸をなでおろす。
もっとも、一番大事なのはアニエス本人の意思だが、フリードの事だから既に根回しはしていそうだし、王国軍の兵士たちの助けになるとあってはアニエスも拒否はしなさそうだが。