共に来てくれないか?
ジャックの補佐に就くことになってから半月。
問題もなく仕事をこなしていると、フリードが訪れてきた。
「やぁ、ジャック、リョータ。調子はどうかな?」
「フリードか。何か用でもあるのか?」
「もちろん。反攻作戦の準備が整ったのでね。」
「遂に、か。」
反攻作戦の準備が整った。
その話を聞いてジャックは目を瞑り、腕を組んで噛み締めるように呟いた。
「これから進軍を開始する訳だけど、レオノーラたちを連れて行く予定でね。用事の一つはその話をしに来たんだ。」
「戦場に連れて行くのか?」
「あくまでも後方の物資管理要員さ。前線に立たせる訳じゃないよ。」
どうやらフリードの用事は、反攻作戦が始まる事を告げるだけではなかったようで、レオノーラさんたち、彼に協力する為に派遣されたメンバーを連れて行く旨を伝えに来たようだ。
それに対し、ジャックは心配そうに問い掛ける。
「安全の保障は?」
「絶対に安全、とは言い切れないね。無論、物資を奪われたり燃やされたりする訳にはいかないから、備えはしっかりとするけれど。」
「…………分かった。」
フリードの『絶対は無いがそれでも安全には気を配る』と言う意見に暫し思案し、ジャックは彼の希望を了承する。
「そう言えばレオノーラさんたちの話が用事の一つって言ってたけど、他には何があるんだ?」
「進軍するにあたって、人材の供出を頼みたいんだ。」
「おいおい、レオノーラたちを派遣してるだろ?これ以上誰を連れて行こうって言うんだよ?」
フリードは更なる人材提供を要請に来たようだ。
しかしジャックも言うように、これ以上誰を連れて行こうと言うのだろうか。
そう思っていると、
「ジャック、共に来てくれないかな?」
「オレか!?」
「君は頭を使う事に関しては一切期待出来ないが、」
「おい。」
「その力に関してはかなりのものだ。僕の護衛として控えていてほしいんだよ。」
「つってもなぁ……。」
フリードはジャックに誘いの手を差し伸べる。
しかしジャックはそれに対して渋い顔で言葉に詰まる。
実際、彼は『差し伸べる手』のリーダーであり、もしも戦死でもしようものなら大変だ。
書類仕事に関しては、まぁ、いないでも大丈夫だけど。
「それに万が一、僕が死んだら『差し伸べる手』とウラッセア王国の太いパイプが無くなるよ?そしたら君たちは活動しづらくなるだろうし、戦いに負けでもしたら『差し伸べる手』の存続自体危ういかもね。」
「脅すつもりか?」
「まさか。純然たる事実を述べているまでだよ。」
「はぁ、仕方ねぇ。実際、お前にいなくなられたら困るしな。付いて行ってやるぜ。」
「ありがたい。助かるよ。」
しかしフリードは協力体制の維持を交渉材料にジャックを説得する。
フリードの協力無くして組織の存続は無いと考えたのか、ジャックは溜め息を吐きながら彼の手を取った。
「それとリョータ。」
「俺も!?」
てっきりジャックのみを連れて行くものと考えていたので、思わず大きく口を開けて驚いてしまった。
俺はジャックみたいに腕っぷしは強くはないし、戦争で役に立ちそうな能力も無いにも関わらず、何故誘われたのだろうか。
「トリア公との交渉で活躍してくれたからね。交渉ごとになった際に同席してもらいたいんだ。」
「まぁ、そういう事なら……。」
「いないよりは良いと思ってね。」
「その本音は言わなくて良いんだよ。」
どうやら以前の交渉に連れて行かれたのが原因だったようだ。
評価してもらえて、頼ってもらえて嬉しさを感じながらフリードの手を取る。
ジャックはフリードの明け透けとした態度にツッコミを入れるが、そこもある意味フリードらしさと言うものだろう。
「それからシスターアニエス。」
「「は!?」」
ジャックと俺が連れて行かれる事に関しては納得出来た。
しかしフリードの求めた三人目の人材に、俺とジャックは驚愕するのであった。