出来ると得意は違う
その後、ジャックが部屋に戻ってくる頃には作業の半分が終わっていた。
「戻ったぜ。」
「お帰り、ジャック。分別と確認をした書類は机の上にあるから。」
「おう、ありがとよ。」
帰ってきたジャックに、作業中の手元から目線を逸らさず、声だけで返事をする。
俺が何をしているのか気になったようで、彼は頭に疑問符を浮かべながら問い掛けてきた。
「ところでお前、何やってんだ?壁の穴が増えてるが……。」
「あぁ、ちょっと廊下に出て穴の開いてる所の上部を見てみてくれ。」
「穴の上?」
彼に廊下に出て確認するように促し、作業を続ける。
壁に穴が開いているので壁の文字を読み上げるジャックの声も問題なく聞こえてきた。
「なになに……『ワシャール支部の』?で、その下には……『金を使った』、『金を貰った』、『情報関連』。」
「それぞれに対応した書類を入れさせるんだよ。そうすれば分別の手間が省けるだろ?」
「なるほどな!ってぇと今開けてる穴は……」
「ワシャール支部以外の書類を入れる用の穴だな。」
俺の説明を聞いたジャックは手を打って納得する。
まだ作業は半分しか終わっていないが、今何をしているかは現段階の状態でなんとなく察してくれたようだ。
「よく考えたじゃねぇか!」
「むしろ今まで考えつかなかった方が疑問なくらいなんだけど……。」
「オレはロッキーに教わった仕事をやるだけで手一杯だったからな!レオノーラたちも手伝っちゃもらってはいるが、あいつらも学がねぇなりに分別だの計算だので考えが及ばなかったんだろうよ。」
部屋の中に戻ってきたジャックは感心しているが、俺からすれば何故今までこの方法を思いつかなかったのか不思議なくらいだ。
彼は先代リーダーのロッキーに仕事を教わったと言っているが、ロッキーも俺がやろうとしている事をしなかったのだろうか。
考えつかなかったのか、はたまたジャックよりも書類仕事の能力が高く必要が無かったのか。
まぁ『差し伸べる手』を立ち上げた存在である事を考えると後者だと思うが。
何故なら……
「そこまで時間が掛かる内容には思えなかったんだけどな。」
分別はそこまで数が多くなかったので時間を要する事はなかった。
計算も数学が得意と言う訳でもない普通の高校生だった俺が、特に問題なく出来る程度の内容だったのだ。
組織を立ち上げて拡大するほどの人物が俺以下だとは思えない。
しかし俺の意見に対してジャックは諭すように反論する。
「言ったろ?『出来る』と『得意』は違うってな。この世界に来るまで、碌に勉強なんてしてなかった連中と、ガキの頃から良い環境で勉強して来たリョータとじゃ地の部分が違ぇんだよ。」
「いや、俺も得意って程ではないんだけど。」
「オレと比べたら得意だろ?」
「比較対象が悪過ぎる……。」
「おい、思ってる事が口に出てるぞ。」
前半の基礎教育の点は理解も共感も出来るが、後半のジャックとの比較に関しては呆れ過ぎて思わず彼の顔を見てしまう。
心の中でツッコんだつもりだったが、どうやら声に漏れていたようで、彼は僅かに怒ったように眉を吊り上げてオレを嗜めるのであった。