反攻作戦の備えを
アニエスが涙していた同刻。
ワシャール東部に築かれた防衛線の司令部、フリードの執務室にて。
「って訳だ。フリード、お前はこの間リョータを連れてトリア公の所に行ってたよな。たぶん協力を頼みに行ったんだろ?」
「あぁ、そうだよ。」
「正直、結果は芳しくなかっただろうが、それでも反撃出来ねぇか?」
「結果を聞く前に決めつけるのはどうかと思うよ。」
ジャックはトムスに聞いた話、第四鉱山組合なる組織から預かった手紙の話をする。
そして厳しい状況である事を理解しながらも反攻作戦を頼み込む。
しかしフリードは反攻作戦の可否よりも先に、トリア公との交渉が失敗に終わったと決めつけられた事に対し、やれやれと言いたげなポーズをとりながら呆れを示す。
「会議がある度に毎度毎度、やれ『何故あの愚物はトリア公におもねっていれば我が身が安泰だと思えるのか』だの、『トリア公こそ自領を守るのであれば、率先して防衛に協力するべきだろう』だのと愚痴を聞かされていたら誰だってそう思うはずだぜ。」
それに対してジャックはフリードの真似をしながら反論する。
しかし、その間にフリードの語り口から真意を察し、
「つーか、その物言いだとまさか………。」
「そのまさか、さ。リョータは良くやってくれたよ。」
「マジかよ!?」
彼の肯定によって表情を驚愕へと変える。
「あいつの事を軽く見てるって訳じゃねぇが、それにしたって随分な働きだな。」
「あぁ、僕としても予想を超える貢献をしてくれて嬉しい限りだよ。」
フリードは満足げに頷き、ジャックが提示した反攻作戦の話を出す。
「さて、先程の反攻作戦の件だけれど、結論から言えば予定はしているよ。」
「おぉ!って事は、遂に反撃を始めるんだな!」
「ただし、当然準備には時間が必要だ。見積もって一カ月くらい、どれだけ早くとも三週間はね。」
反攻作戦の予定。
それを聞いたジャックは喜色を露わにし、フリードに詰め寄る。
しかし彼はそれに掌をかざし、具体的な所要期間説明して落ち着かせる。
「一か月か………。」
「合流する部隊の統合と再編、糧食と兵装の手配、進軍路と補給路の策定、この防衛線に入る部隊と治安維持部隊の統制、その他諸々。こちらも色々とやらなくてはいけないんだ。これ以上早くする事は難しいよ。」
それを聞いたジャックは目を瞑り、腕を組んで思案する。
『理解は出来るが、それでも可能な限り早く行動を起こしてほしい。』
その思いが彼の胸中に燻る。
「分かっちゃいる………。オレたちにも手伝えることがあったら言ってくれ。力になるぜ。」
「元よりそのつもりだよ。」
「馬馬車の様に働かせる事も計算の内ってか?」
「当然じゃないか。」
「はっはっは!こいつめ!」
ジャックはフリードに協力を申し出、フリードもそれを受け入れる。
その後、彼ら軽口を叩き合うのであった。