赦すのではなく
「リョータさん、ご迷惑お掛けしました。」
「気にしないで良いんだよ。泣きたい時は泣いても良いんだからさ。」
「それでも、ですよ!」
アニエスは泣き止むと俺に頭を下げた。
気にしなくても良いと言うが、彼女は頭を下げ続ける。
しかし、その押しの強さと声色的に、先程よりも元気になったようだ。
「泣いたらスッキリしました!エドマンド教区長はもういないけど、まだ悲しさもあるけれど、あの人の分まで生きて、人々の助けになろうと思います!」
「少しでも気が楽になったなら幸いだよ。」
いつも元気なアニエスが落ち込んでいると、雰囲気が暗くなる。
やっぱり彼女は明るい方が似合っているな。
…………まぁ、元気過ぎでレオノーラさんが辟易している事があるけど。
「仲間を助ける為にも、エドマンドさんのような犠牲者を増やさない為にも、早くジョセフを倒さないとな。………と言っても俺が直接手を下すって訳じゃないんだけど。」
ともあれ、少し恰好は付かないが、必ずジョセフを除かねばと決意を固める。
これ以上、被害者を増やさない為にも。
タガミ先輩を助けるためにも………!
「それで良いんですよ!私は別に復讐だったり、ジョセフに死んでほしい訳じゃないんです!」
「アニーは優しいんだな。もしもタガミ先輩が殺されていたら、俺は赦せないと思うんだ。」
「赦しはしていません!ただ、償ってほしいんです!死んでしまったら償う事すら出来ないじゃないですか!」
エドマンドさんの事を考えると、タガミ先輩が死んでいる可能性が脳裏を過る。
その『もしも』があるとしたら、俺はジョセフを赦すと言う選択肢は存在しない。
しかしアニエスは赦す赦せないと言う考えではなく、償いを求めていた。
「それになんて言うか、個人の復讐で人を殺すのは違うと思うんです!」
「違う?」
「悪い人はルールで裁かれるんです!エドマンド教区長も言っていました!罪人は法に依って裁かれ、主の裁きはその人が最期を迎えた時に下されるって!だから私が個人的な復讐をするのは、何か違うんじゃないかなって!」
「………アニーって意外と賢い所があるんだな。」
法に依る裁きの概念。
彼女がそれを知っているとは思わなかった。
と言うか、この世界の生活・技術水準や文化を見る分に、その考えは浸透していないだろうと思っていたのだ。
いや、法律は存在するだろうし、それに基づいて犯罪の処理が行われる基盤があるのは分かるが、それでも俺の生きてきた時代と比べると未成熟で、人々の理解度が低いだろうと思い込んでいたようだ。
「えぇ!?酷いですよ!確かにリョータさんと比べたら知らない事もたくさんありますけど!」
「ははは!悪い悪い!本質的に大切な事を理解しているんだなって思っただけだよ。」
「むぅ………!」
俺の発言に『ガーン!』と効果音が付きそうな表情でショックを受けるアニエス。
先程の悲しみを感じさせない表情の豊かさに思わず笑ってしまう。
謝罪をするが、彼女は頬を膨らませて『怒っています』と言いたげな目でこちらを見てくるのであった。