分かち合う
「ここまでがスメイで出会った神父、マーティンの話だ。」
「そんな出来事が………。」
「…………。」
トムスの話を聞き終わり、マーティンと言う人物の覚悟を思い知る。
同時に、生きていれば色々な事が出来るだろうに、と思わずにはいられない。
一方アニエスは話を聞き終わっても沈黙したままだ。
「どうした、アニー?」
「あの、トムスさん。マーティンさんが言っていた処刑された人の名前をもう一度聞いても良いですか………?」
「あぁ、確かエドマンド、マーベリック、ジョセフィーヌって言ってたな。」
「そう、ですか………。ありがとうございます…………。」
その様子が気になり、声を掛けると彼女はトムスに質問をする。
処刑された人の名前を聞くアニエスに、どことなく辛そうな雰囲気を感じ取る。
「大丈夫か?」
「はい、大丈夫です!トムスさん、お話ありがとうございました!これからお仕事があるので失礼しますね!」
心配になって声を掛けるが、いつもの様に元気良く返事をして食堂を出て行った。
しかしその顔色は返事に反比例して暗かった。
その後、アニエスは仕事でも授業でもうわの空で明らかに集中できていなかった。
そして授業が終わり、俺とアニエス以外は誰もいなくなった後も教室から出ず、椅子に座っている。
正直、どう声を掛けたら良いのか分からないが、それでも放っておけない。
「アニー、もしかしてさっきトムスが言ってた処刑された人たちって…………。」
「はい、教区長………エドマンドさんにはたくさんお世話になりました…………。」
生きているのであれば、助ける事は出来る。
しかしアニエスが助けようとした人は既に………。
「どうして、どうして、こんな酷い事が出来るんでしょうか………。」
アニエスはぽつりぽつりと語り出す。
「皆、皆、何も悪い事なんてしていませんでした。慎ましく、穏やかで、人々の幸せを祈る、主の僕でした………。」
「アニー………。」
天を見上げながらエドマンド教区長たちを思い返すアニエス。
そこには普段のような明るさは無く、今にも泣き出しそうだ。
「どうして話し合いで理解し合えないんでしょうか。どうして憎み合う事しか出来ないんでしょうか。どうして…………、ユーキさん?」
「アニー、辛い時は辛いって、苦しい時は苦しいって言って良いんだ。泣きたい時は泣いたって良いんだ。我慢なんて、しなくて良いんだよ………。」
その悲しみを真に理解する事は出来ない。
でも分かち合う事は出来るはずだ。
俺はアニエスの頭を胸元に抱きしめ、泣いても良いのだと諭す。
「う、うぅ………うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
その言葉を聞いたアニエスは今まで我慢していた感情が溢れ出す。
堰を切ったように涙は零れ、慟哭は部屋中に響き渡った。
彼女が泣いている間、俺は優しく彼女の頭を撫で、胸を貸すのであった。