秘密の抜け道
「あんたは誰だ?見たところ神父に見えるが………。」
「えぇ、私はマーティン。貴方の見立て通り、神の僕ですよ。」
「って事はさしずめ、信仰を捨てずに捕まった訳か。」
「つい先日、ジョセフの手下が痺れを切らしましてね。私以外の信徒も別の街の牢獄に連れて行かれてしまったのですよ。」
トムスに話しかけた男は名乗り、捕まった理由を語る。
この牢屋に捕らわれたウハヤエ教の信徒はマーティン一人のようだが、どうやら他の街にも同じように信徒が捕らわれているらしい。
別々の牢屋に捕まっているのは、恐らく『信徒たちが団結すると厄介だから』と言う理由だろう。
この牢屋に捕らわれている信徒が一人だけである理由にトムスが当たりを付けていると、マーティンもまた問い掛ける。
「それで貴方は?」
「オレはトムス。訳あってマスカに向かってた旅人だ。」
「この時期に旅をされるとは、さぞ重要な要件を抱えているのですね。」
「あぁ、ちょっと親戚の所にな。だが詳しい話は………」
「いえ、無用な詮索はしませんよ。」
「助かる。」
トムスが名乗り、行先を語るとマーティンは彼を労う。
しかし『差し伸べる手』などの詳細を話す事を避けたトムスは曖昧に答える。
それに対しマーティンはそれ以上に問い掛けず、互いの身の上話を終える。
「それで、トムスさんは脱獄を考えていますか?」
「堂々とそんな話するか、普通?牢番に聞かれたらマズいだろ。」
「幸いな事に、ここの牢番はいつも入り口で酒を飲んでいるので大丈夫ですよ。」
「よく牢番にそんな奴を配置するな………。」
マーティンが脱獄の話を切り出し、トムスは小声でそれに返事をする。
自分たちの身の上話ならともかく、脱獄の話などをしては良くて警戒、悪ければすぐさま処刑されるだろう。
しかしマーティンは何ともないように牢番の怠惰な勤務姿勢を語る。
別々の牢屋に入れて分散させていた割に、雑な管理体制で呆れながらも『好都合だ』とトムスはほくそ笑む。
「そうだな、オレは脱獄を考えている。」
「でしたらちょうど良いタイミングでしたね。」
「ちょうど良い?あんたも脱獄しようとしてたのか?」
「えぇ。実は私、この牢獄の秘密の抜け道を知っていまして。」
トムスもこのような所で捕まっているつもりはない。
すぐさま脱獄してワシャールの街へと向かうつもりだ。
彼が脱獄の意思を伝えると、マーティンは人差し指を口元に当てて、まるでイタズラっ子のような笑みを浮かべる。
そして『秘密の抜け道』を知っていると語るのであった。