東の現状
トムスがワシャールの街に訪れた翌日。
「おはよう、改めて自己紹介をしよう。オレはトムス、よろしくな。」
「俺はユーキリョータ。よろしく、トムス。体調は大丈夫か?」
「あぁ、飯を食ってぐっすり寝たら楽になった。」
朝、剣の訓練を終わらせて汗を拭っていると、起きてきたトムスと出会う。
昨日までの土気色のような顔色は、栄養を摂り、睡眠した事で改善していた。
もはや目に見えて衰弱はしていない。
「これから朝食だから食堂に行こう。そこでどんな旅をしてきたか聞かせてくれないか?」
「構わないぞ。と言っても過酷なばかりで面白味は無い、どころか気分を害する可能性もあるが。」
「それでも共和国内がどうなっているか知れる範囲で知っておきたいんだ。」
「分かった。」
ちょうど朝食の時間が近づいていた為、トムスを誘って食堂に向かう。
そこでこれまでの旅路を聞かせてほしいと言うと、彼は若干気後れしながら了承する。
俺はタガミ先輩を助けるためにも、とにかく情報が欲しい。
それが厳しい現実を突きつける物であったとしても、諦める訳にはいかないのだから。
「リョータ、トムス、おはよう。飯ならもう出来てるぞ。」
「リック、おはよう。」
「おはよう。ありがたく頂こう。」
既に食事は完成しており、リックから配膳される。
そのまま席に着いて食事を始めた。
「それで、どんな旅をしてきたんだ?共和国内はどんな感じだったんだ?」
「そうだな、一から順を追って話していこう。
オレたちは元々ウラッセア王国の東部にあるウィルククって街に拠点を構えてた。
だがジョセフの野郎が反乱を起こして共和国を建国した後から転生者への風当たりが強くなってな。
挙句の果てには『転生者狩り』だの強制徴税だのが始まって、『差し伸べる手』は共和国内から避難する事にしたんだ。
その後は東の港町のラジアストまで避難して情報を集めていたんだが、碌でもない事ばかりが耳に届いた。
ラジアストの東にあるヤパン諸島じゃ、ジョセフが共和国を興す前に反乱を起こしたノヴァーガって奴が武具を大量に生産させたり、食料を大量に買い込んだりしてるんだ。
恐らくは戦争をするつもりだろう。
それとラジアストの北にあるべリア平原は本来、ウラッセア王国の範囲外だったが、共和国の連中は資材の確保の為に国民を連れて来て強制労働させているんだ。
それらの情報を集めた結果、当然と言える結論に達する。
こっち側は危ないって言う結論にな。」
「そんな事が………。」
トムスが語った内容は、確かに危険を冒してでも伝えなくてはならないものだった。
遠からぬ未来、彼らが避難していたラジアストの街も戦火に巻き込まれる可能性や、共和国の魔の手が伸びてくる可能性が高いだろう。
「だから一カ月、いや二カ月だったか、それくらい前にラジアストを出てこちらに向かったんだ。」
「二カ月!?」
そんなに長い間、旅をして来たのか!?
想像以上の期間に驚きを隠せない。
その間に一体どんな出来事があったのか、俺は固唾を飲んで耳を傾けるのであった。