交易権の使い道
会議から一夜が明け、帰路に就く。
その馬車の中で。
「なぁ、フリード。」
「なんだい?」
「お前はどこまで計算して俺を連れてきたんだ?」
「概ね計算通りに動いてくれたかな。」
フリードにどこまで計算していたのかを問う。
拒否権はなく連れて行かれた先で非協力的な姿勢の貴族たちを見せられ、会議が終わったかと思えば無茶振りをされ、最終的にはルセロア公と言う貴族に気に入られる。
連れて行かれる時は会議の有様を見せたいと言っていたが、そこから先は全く聞いていない。
「昨日も言ったように、この国を支配する貴族たちがどのような考えであるかを見てもらう事。それとルセロア公との顔合わせまでが予定していた事だね。」
「後者は聞いてなかったんだけど、教えてくれても良かったんじゃないか?」
「協力者云々の色眼鏡をかけずに会議の成り行きを見てほしかったからね。しかし僕の予想以上にルセロア公に気に入られてくれて嬉しいよ。次回以降の会議にも来てほしいと言っていたしね。」
「一応、他にも昔話はあるけど、それでも限度があるぞ?」
「諸侯会議は二カ月に一度程度の頻度だから、そこまで気を揉まなくても大丈夫だよ。」
確かにジャックを連れてきていたら、ルセロア公に気に入られるような話をする事は出来なかったかも知れない。
それに机仕事は苦手だが、一応はリーダーでもあるわけだし。
まぁ過ぎた話をどうこう言っても仕方がない。
フリードがルセロア公と話していた内容について聞いてみよう。
「で、俺を餌にして交渉してたみたいだけど、何が狙いなんだよ。交易圏がどうとか言ってたけど………。」
「あぁ、非常に重要な内容だよ。ウラッセア王国の南には最近になってようやく開拓されてきた大陸があってね。それがエウリア大陸なんだ。」
「つまりはそのエウリア大陸ってところから産出される資源なり利益なりが欲しかったって事か?」
「惜しいね。普通はそう考えるだろうけど、今回は違うよ。」
資源や利益が理由じゃないのであれば、何故交易権を要望したのだろうか。
普通に考えて違ったのならば………
「……誰も気づいていないけど、実はウラッセア王国の王族や親戚みたいな血縁関係のある人間がそこに逃れているとか?」
「ははははは、中々面白い発想だね。悪くない。」
「え、マジで?」
「でも違うよ。」
「だよなぁ。」
普通じゃない視点で考えてみたが、いくら何でも荒唐無稽過ぎたようだ。
普通じゃないけれど、だからと言って非常識な内容でもない理由………。
正直分からないが、とりあえず思いついたことを言ってみよう。
「いっそのこと交易の権利を誰かに又貸しするとか、交渉条件にするとか?」
「………ほぉ。」
俺の回答に短く反応するフリード。
それが嘆息なのか、はたまた驚嘆なのか判断が付かない。
「なんだよ、その反応。」
「いや、やっぱりリョータは面白いね。実に良いよ。」
「違うなら違うって言ってくれ。」
「正解だよ。」
マジか。
焦らされて不正解を告げられるかと思ったら正解だった。
「大義名分だけで人間は動かないからね。ましてや防衛戦は利益が無いに等しい。制圧された王国領を取り戻しても、その地を治めるに相応しい人物に委ねなくてはならない。明らかに収支が釣り合わないのさ。」
「だからと言って、敵の侵攻を無視してたら余計に奪われるだけだと思うんだけどな。」
「しかし彼らは自分たちの領地に被害が及ばない分には本気にならない。」
「その特性を敵に分析されてたら各個撃破されるよな。」
敵だって元々は一つの同じ国だったわけだし、この貴族の特性を分析や研究していないとは思えない。
そう考えると現在フリードが守っている防衛線が最終防衛ラインと言っても過言ではないだろう。
「そうならない為に指揮系統を一本化しようとしても反対されるのは昨日の会議を見れば明らかだよ。」
「だからこそ、交渉材料が必要だったって訳か。」
自発的に動こうとしない貴族。
迫り続ける敵。
内部にも外部にも問題だらけの中で、自分に出来る事を全力で取り組んでいるという事か。
そんな事を考えているとフリードが頷きながら感心している。
「うんうん。やっぱりきちんと考えることが出来る人材はありがたいね。これからも自らの頭でしっかりと考えてほしいよ。」
「とは言っても、俺もフリードほど頭が良い訳じゃないから力になれる気がしないんだけど。」
「それでも、だよ。思考放棄するなんてもっての外だし、自分一人の思考で完結しない為にも、考えを整理するためにも、同レベルで話せる相手は必要なんだよ。」
「同レベルって……だから俺は「僕の期待に応えられるほどに成長してくれるのを待っているよ。」………まぁ努力する。」
いつものような余裕のある笑みで期待している事を伝えるフリード。
その表情は相変わらず本心が読めず、その期待も何らかの計算が含まれているのではないかと思いそうになる。
しかしその瞳は、心の底からそう思っていると語っていた。