協力者は少女?
フリードは右腕を胸の前に、左手を後ろに回し、礼をとり、俺もそれに続いて同じポーズをとる。
「ようこそお出で下さいました。ルセロア公。」
「カイギの時、ちゃんと静かにしていたのだわ!えらいでしょ!」
「えぇ、とても。」
「だからこの前のお話の続きを聞かせてちょうだい!」
「もちろんですとも。」
ドアを開け放ち、入室してきたルセロア公はフリードの元へ歩み寄る。
会議中、静かにしていたことを褒めてもらいたそうに胸を張り、ご褒美をねだるその姿は、幼い少女そのものだった。
貴族でこそあるが、年齢的に会議の内容を理解する事は難しいだろうし、会議中にずっと無言だったのも理解できる。
しかしフリードは先ほど、ルセロア公が協力者であるかのような物言いをしていたが、実は見た目に反して知恵者だったりするのだろうか。
そんなことを考えながら、ニコニコしながら童話を聴くルセロア公を眺めていた。
「ありがとう!とっても楽しかったのだわ!」
「喜んで頂けて何よりです。」
「今度お礼を送らせていただくのだわ!」
「ありがたき幸せ。」
今のところ、童話を聴く姿は普通の少女そのものであり、知的さを感じさせる要素は見当たらない。
至って普通に童話にワクワクし、目を輝かせる姿は確かに癒しになるだろう。
フリードもストレスが溜まる生活を送っているだろうし、純粋無垢な姿に癒されたかったのだろうか。
確かに先ほどの貴族たちよりは味方をしてくれそうだが、頼りになりそうかと言われると別問題だ。
「ところでクリストフ殿の行方は?」
「全然見つからないのだわ。早くセンソーが終わってくれないかしら。」
「努力はしているのですが、他の諸侯の協力を頂かなくては厳しいですね。」
「リィンおじ様は負けないって言ってたけれど、そうなの?」
「えぇ、負けこそしませんが、勝てませんね。それもルセロア公の援助によってどうにか成り立っている、というのが現状ですので。」
「むぅ……、それじゃあ王都の方にはまだ探せないのね。」
「残念ながら。」
「ままならないものだわ。財宝ならたくさんあるのに、それを生み出したクリストフがいないだなんて………。それに彼のお話はいつも財宝以上に魅力的だし、ディーゴも寂しがっていると思うのだわ。早く会いたいわね。」
ルセロア公はフリードの話を聞き、悲し気にため息を吐く。
先ほど会話の中に出てきたクリストフという人物は、どうやらルセロア公にとって重要な存在のようだ。
話の流れ的には恐らく行方不明、もしくはタガミ先輩みたいに連れていかれたという可能性もある。
しかし財宝を生み出した、財宝以上に価値のある話をする人物か。
本題はそのクリストフという人物だろうし、聞き逃さないようにしておこう。
それに『ディーゴ』という人名、どこかで聞き覚えがあるような気がするが、一体どこで聞いたのだったか………。
そんな事を考えながら話を聞いていると、
「ところでフリード、この人は?この前のカイギの時に連れてきていた人とは違うのだわ。」
「あぁ、ハルフェ、前回の従者は今回は来ていないですよ。リョータ、名乗る事をを許す。」
ルセロア公が唐突に俺に視線を投げかけて話題に挙げる。
一応は従者役だからと黙って話が終わるのを待っていたが、何故急にこちらを見るのか。
しかし相手は少女と言えど貴族だし、粗相をする訳にはいかない。
かと言って失礼のない美辞麗句なんて分からないから、当たり障りのない返事をするしかない。
「はい。ユウキリョウタと言います。」
「ふーん………。わかったのだわ!この人もイセカイジンなのでしょう!」
「ご明察の通りです。」
「そうだと思ったのだわ!なんだか雰囲気が違うもの!」
そこまで雰囲気が違うのだろうか。
確かに生きてきた環境が違うし、他人から見たら違いがあるのかもしれないな。
そんなことを考えていると、ルセロア公は幼い少女らしい屈託のない笑みを浮かべ、
「ねぇ、リョータ!」
「はい。」
「何か面白い話をしてちょうだい!」
無茶振りをしてきた。