味方は誰だ
その後、議題は移り変わり、税金の話やそれぞれの領地からの輸出入の話が始まる。
「ふむ、そうじゃのぉ。それならラディウム領に対しては食料品を多めに輸出してもらうのがよいじゃろう。」
「しかし当領は土壌の観点から備蓄を優先したいので、大麦に関しては考慮して頂きたい。」
「であれば………」
以降に戦争の話は上がることがなかった。
「ぶふぅ、漁獲量が減少しておる。ぶふぅ、供給量も減ることを考えると………」
「こちらは豊漁ですので、その分は供給ルートを変えることで………」
「ならば関税は………」
まるで他人事であり、自分たちは無関係であると言わんばかりに。
「さて、議論は全て終わったな。これにて第六回諸侯会議は閉会とする。」
税金の話も、輸出入の話も、確かに領地を治める人間にとっては重要なことなのだろう。
けれども、その領地を守ることを他人に依存したまま、他人事のように、自分は無関係であるかのように認識するのは間違っているのではないだろうか。
ただ黙ってこの会議の終わりを眺めていて良いのだろうか。
このまま戦争に関することが何も決まらず、もしかすれば戦況が悪化して『差し伸べる手』までも影響が及ぶかも知れない。
そうなっては先輩を助けることから遠のいてしまう。
これ以上無言を貫くわけにはいかない。
「…………。」
しかし俺が口を開く前に、フリードは一瞬こちらを見やり、鋭い視線で『何も言うな』と訴えてくる。
何も言えないまま、貴族たちは会議室から出ていき、俺たちも客室へと案内される。
そして客室でフリードは俺に問いかける。
「さて、リョータ。君は誰が味方だと思うかい?」
「え?」
味方?あの会議で?
誰もが傍観者のような振る舞いをしていたのに、味方なんているのだろうか。
強いて言うならば………
「あの太った貴族、ハルゲンベン公だったか?あの人は『海からも敵が来る』みたいなことを言ってたし、たぶん戦ってるんだよな。だったら味方なんじゃないか?他の面々は正直に言って誰も頼りになりそうにないぞ。」
「なるほどね。確かに彼は私の担う戦線以外で戦ってくれている。味方と言っていいだろう。ただし頭に『連携の取れない』が付くけどね。」
「どうしてだ?一緒に戦っているんじゃないのか?」
「それは彼の領地の大部分が海に面していて、その海から敵が攻めてくるからだ。」
「だったら「しかし、その為に海岸線の防衛戦力を割くことはもちろん、物資や軍資金の供出も難しい。逆にこちらも戦力を援護に回せるほどの余裕もない。」自分のことで手一杯って訳か。」
「そう言う事だよ。」
「それじゃ本当に誰も味方がいないって事か?」
孤立無援。
そんな状態でどうやって戦えばいいのだろうか。
そもそもこの会議に出席する意味はあったのだろうか。
この絶望的な状況を体感させるために俺は連れてこられたのだろうか。
悪い考えが頭の中を埋め尽くす。
「いいや、そうじゃない。」
しかしフリードはそれを否定する。
「でも他の貴族たちも協力的じゃないし、正直他人事って姿勢だったぞ。」
「あぁ、そうだね。しかし、彼女は間違いなく味方だよ。」
「彼女?」
あの会議には男の参加者だけだったのでは?
いたとするならば、会議中に一言も発することのなかった、あの少女だけだ。
そう考えていると、勢いよく客室の扉が開かれる。
「ようやく退屈なカイギが終わったのだわ!フリード、面白い話を聞かせてちょうだい!」
とても会議に参加するような年齢には見えない貴族の少女、ルセロア公が扉の前に立っていた。