会議は踊る
貴族たちの意味があるのか無いのか分からないやり取りを聞き続け、恐らくは1時間近くが過ぎ、
「さて、反乱軍の対処に関してだが………」
ようやく本題に入る事となる。
「現状、敵の侵攻を食い止めているものの、反撃を試みるのには戦力が足りません。皆様方からも兵の供出をお願いしたい。」
「ふむ、しかし少なくとも守りに徹すれば負けはせんのだろう。」
「で、あれば、無策に攻勢に転ずるよりも守勢を以って反乱軍が瓦解するのを待てばよかろう。」
「然り。領内の治安維持の為に兵を割く方が有意義であろう。反乱軍どもに後方を攪乱されては堪った物ではあるまい。」
「加えて我が領は先日の長雨で川の氾濫や農耕地の被害に対処せねばならん。ここで兵を出す余裕はない。」
「ぶふぅ、悪いが吾輩も兵を供出する余裕はないぞ。何せ連中は海からも押し寄せてくるのだからなぁ。」
「我々の領土は前線からかけ離れている。装備ならともかく、派兵は現実的ではない。」
フリードが支援を要請するが、他の貴族たちは誰一人としてそれに応じない。
反対する貴族の言い分も理解出来ないわけではないが、最前線で指揮を執っているフリードの意見をもう少し尊重しても良いのではないだろうか。
とは言え、従者役の俺が口を出す訳にもいかない。
そもそも助け舟を出せるだけの交渉材料も無いのだ。
「現状維持で問題は解決しません。常にギリギリの状態でどうにか防いでいるのが現状なのですよ。反乱軍は更に兵を派遣して来る事は明白です。ここで手を打たなくては我々は………!」
「…………時にフリード卿。」
賛成に回る貴族がいなくとも、フリードは熱心に支援を求める。
それを聞いていた議長の貴族、トリア公は重々しく口を挟む。
「よもや王国最強の将である『怪人』殿が敗れると考えているのかね?」
「そのような事はありません…………。」
「ならば問題無かろう。ホーエンゼレル公も無為に民草が死ぬ事は望んでおるまい。」
「全く、トリア公の仰る通りですな!」
「然り。流石は稀代の英俊であらせられる。」
「民草の命を慮るその貴き在り様、しかと目に焼き付けましたぞ!」
「正しく貴族を体現した存在と言って過言では無いでしょう。」
トリア公が口にした意見は、この場にいないゲーランを理由にフリードの要請を断る物であった。
更には民衆を無駄死にさせる事も望むところでは無いと語るが、結局は手を貸したくないだけではないのだろうか。
公、領地、それらの単語とこれまでの会話から考えるに、恐らくはそれぞれの領地を治める貴族は国と言う括りで問題を捉えてはいないのではないだろうか。
旧王国側と共和国側のどちらに付いた方が得か、天秤にかけているのではないだろうか。
どうすれば自分の地位と財産を脅かされずに済むかを重視して考えているのではないだろうか。
何となく今まで抱いていた『悪い貴族』像の一部を見せつけられている感覚になる。
これがフリードの見せたかったものなのだろうか。
何故この状況を見せたかったのだろうか。
困惑と失望を感じさせながら、会議は踊る。