拉致
フリードに告げられた四日後は、訓練と授業を繰り返す日々を過ごし、訪れた。
具体的な内容は一切聞いていない。
この日までフリードもゲーランも拠点には訪れなかった。
そして約束の日の朝、拠点の前で一台の馬車が止まった。
その中には………
「やぁ、おはよう。良い朝だね。」
「フリード………?」
これまでに見て来た服装とは違う服装、中世的な礼服、貴族の服と言われそうなキッチリとした服を身に纏ったフリードが乗っていた。
「驚いたかな?」
「いや、なんだよ、その恰好。」
「これから諸侯会議があってね。僕はホーエンゼレル公の名代として参加するのさ。」
「…………ちょっと待ってくれ。」
諸侯会議?参加?フリードが礼服?
これらの情報から導き出される結論は………
「まさか俺にも会議に参加しろ、なんて言い出したりしないよな?」
「フフフ………。」
「ニッコリ笑って誤魔化そうとするな!」
「さぁ、行こうか。」
なんでそんな会議に参加しなくちゃならないんだよ。
俺が参加したって話について行けるとは思わないし、そもそも他の参加者からしても『誰だ、こいつ?』ってなるだろう。
俺は顔を顰めて拒絶の意を示そうとするが、フリードは腕を掴んで引っ張り、無理矢理馬車に乗せる。
「安心してくれたまえ。君には僕の従者見習いとして付いて来てもらうだけだから。」
「無理矢理連れてきておいて、何をどう安心すれば良いんだよ。」
「基本的には会議の話を聞いているだけで良いよ。別にリョータに話を振ったりしないし、他の参加者は僕の従者なんかに話しかけたりはしないだろうからね。」
聞いているだけで良いって、ほんとに参加するだけなのか?
それでも貴族の会議なんて参加したくない。
何と言うか、貴族ってあまり良いイメージが無い。
創作物とかで大体悪役や、悪徳貴族の姿が描かれているからかも知れないが、あまり近づきたくはないのだ。
四日前に用件を伝えなかったのは、俺が同行を渋ると考えたからか…………。
「そもそも諸侯会議?に参加するにしても、俺はフリードみたいにキッチリした服なんて着てないぞ。」
「そこも安心して良いよ。従者役を演じる為の服なら用意してある。後で着替えてもらうから。」
服装を言い訳に降ろしてもらおうとしたが、既に手を打たれていた。
フリードの手には、貴族の着そうな豪奢な物でこそないが、それでも今着ている服よりもしっかりした見た目の服があった。
「………分かった。付いてくよ。それに四日前にも、要件は教えてもらえなかったけど、それでも時間を作るって約束はしたからな。」
「君が誠実な人間で何よりだよ。まぁ何か困った事があったら助け舟は出すから、そこまで不安がらなくてもいいよ。」
逃げ出すことを諦めて、フリードと共に会議に向かう。
馬車は街を出て、森を抜け、道を往き、太陽は頭上を越え、これから日が沈むような時間になり、会議が行われるであろう街に到着した。
「随分遠いんだな………。」
「まぁ戦場の最前線であるワシャールに、各領を治める貴族を集める訳にはいかないからね。それに貴族社会の面倒な所も理由にあるけど。」
「面倒な理由?貴族同士のメンツとか力関係とか?」
「その通り。上位の貴族が下位の貴族の下に訪れるのはよろしくないだの、くだらない事を大切にしているのさ。あぁ、着いたようだね。」
会話をしていると、馬車は街の中心部にある城の門を潜り、入り口の前に止まる。
馬車から降り、城内に入り、進んで行くフリード。
俺はその後ろに続き、進んで行く。
会議室の前に到着し、扉を開くと、そこには四人の参加者が座っていた。
それぞれの双眸がこちらを捉える。
しかしフリードは全く気にした素振りを見せず、椅子に腰かける。