誘い
「ま、今日は顔を見に来た程度の認識で問題無いぜ。」
「『今日は』って事はまた今度来るのか?」
「あぁ、時間がある時に何回か視察にね。ちなみにここ以外の支部にも訪れているよ。有望な人物を探す為に時間を割くのは当たり前だからね。」
思ったよりも人材発掘に余念がないようだ。
まぁ確かに、ジャックやタガミ先輩みたいな人が周りにいたら頼りになるし、安心できる。
フリードも手が足りないと言っていたし、まさしく喉から手が出る程に人材に乏しいのだろう。
しかし、まだ重要な事を聞いていない。
仮にスカウトされるにしても、絶対に確認しておきたい事がある。
「へぇ、一応聞いておきたいんだけど、スカウトされたら何をする事になるんだ?戦場で戦わされる、なんて事は無いよな?」
「もしそうなら真っ先にジャックを引っ張ってくるよ。」
「ゲハハハハハ!おう、あいつは良いぜ!最前線で戦えるだけの力がある!仲間を鼓舞する前向きさもある!悩みながらも冷酷な決断を下せる!是非ともオレの麾下に欲しいぜ!」
『もしそうなら』と言う事は暗に戦場に駆り出される事は無いと言う事だろう。
それにしてもゲーランは凄い絶賛具合だ。
確かにジャックは戦場で暴れまわれそうだけど、俺達のリーダーを連れて行かれては困る。
そんな事を考えていると、フリードは残念そうな表情で首を横に振り、話を続ける。
「けど彼は『差し伸べる手』のリーダーで在り続ける事を望んだ。それに仲間が戦場で戦う事も拒んだ。」
「こう言っちゃなんだけど、結構こっちの我儘を聞いてもらってるんだな。」
「まぁそれだけだったら契約は取り交わしていないけどね。」
「じゃあどうして?」
「個人的な約束、さ。内容は秘密だけどね。」
共和国に抵抗する為に、少しでも戦力が欲しいと思うのだが、フリードは戦力の提供をしない事を認めた。
利について執着と言っていい程の姿勢を見せるフリードが、だ。
その理由を問うと、フリードは普段の余裕ある笑みとは少し違う、どこか穏やかさを感じさせる微笑みで短く『約束』と語る。
一体どんな約束を取り交わしたのか気になるが、本人は秘密と言って話そうとしない。
「それよりも四日後に時間を作ってもらっても良いかな?」
「四日後?一体何があるんだ?」
「それは当日に説明させてもらうよ。安心してくれていい、別に敵と戦えなんて言ったりはしないし、命の危険がある訳でも無いから。それとジャックには話を通してあるから、後は君の意思次第だよ。」
怪しい………。
何があるかを伝えずに時間を作って欲しいだなんて、普通に考えたら断るべきだろう。
しかし、
「…………分かった。」
「良い返事がもらえて何よりだよ。」
「ゲハハハハハ!それじゃあ、またな!」
俺はフリードの誘いに乗る事にした。
共和国の脅威に頑強に抵抗するフリードは間違いなく、この世界で情勢に影響を与える事が出来る人物だろう。
そんな人物に協力していれば、いずれはタガミ先輩と巡り合い、助けられるかも知れない。
例え僅かな可能性だとしても、ずっと他人任せで待ち続けるよりは、よっぽど良い。
それに共和国が世界征服なんてしたら、タガミ先輩を助けるどころではなくなるのだし。