来訪の意図
「そうだね、まずは前提から話しておくよ。リョータ、君は僕が無償で、善意で、思いやりで『差し伸べる手』に融資していると思うかい?」
「いや、欠片も。」
フリードは出会って間もない相手にさえ、利用出来そうとか言い出す男だ。
そんな良くも悪くも率直に『利』で判断し、それを伝える男が、何のメリットも無いのに融資なんてする訳が無いと思う。
知り合って間もないが、もしフリードが『善意で』なんて言い出したら偽者の可能性を疑うほどに、ある意味では信用がある。
「そうだとも。僕が君たちに協力する代わりに、君たちも僕に協力してもらう契約なのさ。」
「でも協力って、どんな形で?」
「僕の方からは君たちに対して不足している物資、主に食料だね。それらを融資する事と、ある程度の範囲で『差し伸べる手』の拠点を確保する事だよ。」
フリードは俺の否定に対して気を悪くする様子も無く、話を続ける。
確かに行商で稼いだ資金で拠点となる建物を購入した可能性もあるが、それでも各支部を賄いきる程の資金力があるようには感じられなかった。
前々から薄っすらと疑問に感じていたが、『差し伸べる手』が各地に支部を構えられている理由がここで判明したのだ。
「そして、その対価として君の仲間たちが行商を始めとした各活動で得た情報を僕に流す事と、優秀そうな人材がいた場合は派遣してもらう事だよ。」
「つまり、俺の事をスカウトするかも知れないから、さっき評価していたって事か?」
「そういう事だぜ。つってもあの短時間で決定は出来ねぇけどな、フリードに『面白い奴がいた』って聞いたから見に来たんだぜ。」
まぁこの世界に来たばかりの時は『チート能力で無双!』とか、『現代知識で無双!』とか考えたりもしてたけど、今は既に自分の非力さを理解している。
認めるのは悔しいが、少なくとも王国一の将軍と呼ばれるような人物のお眼鏡に適うとは思えない。
一応、現状では決定はしないとゲーランは語り、フリードが話を続ける。
「結局のところ、僕には基盤となる後ろ盾はあるが、動かせる手が足りない。君たちには人手はあるが、生活基盤が足りない。互いに利用し合える状態だから信用も置ける良い契約だと思わないかな?」
「まぁ利用し合うって言う表現だと頷きたくなくなるけど、互いに不足しているものを補い合うのは良い事だと思うぞ。実際、人間って一人じゃ生きていけないから協力するんだし。」
「悪くはねぇ意見だな!そいつは間違ってねぇと思うぜ!」
一人では生きていけない。
俺はジャックたちに助けてもらった。
だから俺もジャックたちの力になる。
互いに足りない物を補い合って、支え合う。
それが人間だと、この世界に来てから思うようになったんだ。
表現こそ肯定しづらい物ではあるが、たぶんフリードもそれを理解していると思う。
表現こそ肯定しづらいけど。