師事と適性
賑やかな宴が終わり、ジャックの指示の下、食堂を片付ける。
それぞれが食堂から出ていき、仲間たちから解放されたジャックに頼みごとをする。
自分の身を守る為にも。
「ジャック、剣の使い方を教えて欲しいんだ。」
「おう、構わねぇぜ。テメェをテメェで守れるのに越したこたぁねぇからな。」
「なぁ、リョータ。教師役がジャックで本当に良いのか?」
「え?」
元居た世界では剣なんて触った事も無ければ、剣道をやった事も無い。
ただ持っているだけでは意味が無いので、ジャックに以前貰った剣の使い方を教えてもらおうと頼む。
しかしソーオウはそれに待ったをかける。
「確かにジャックはバカみてぇに強いけど、」
「バカみてぇってのは余計だろ。」
「基本的に腕っぷしで戦うタイプだから真似できるとは思えないんだよ。」
なるほど、確かにジャックと俺じゃ筋肉量が違うし、それならば別の人に頼むのも一つの手か。
「そもそもリョータにゃ筋肉が足りてねぇと思うぜ、オレは。」
「そこも込みでトレーニングするよ。」
「まぁ例え鍛えて多少筋肉を付けたとしても、ジャックはパワーありきの、自分の力を活かす戦い方は真似できないと思うけどな。」
「つまりはアレか?リョータに剣を教えるなら別の奴が良いって事か?」
「あぁ、そう言う事だ。」
剣を振る上である程度の筋肉は必要になるだろうし、筋トレもするが、それでも何十年経ったとしてもジャックの域に到達するのは厳しいだろう。
そう考えると一般的な体格の人の教わる方が良いかも知れない。
「なぁ、二人とも。分厚い装備に身を包んだ相手と戦う時、どうやって戦う?」
「装備ごとぶった斬る。」
「えーと、装備の隙間とか関節辺りを狙う?」
「ほれ、この時点で適性が違い過ぎるぞ。つーか装備ごとぶった切るなんて芸当、ジャック以外じゃ誰にも出来ねぇだろ。」
「だから日頃から言ってんだろ。『もっと筋肉を付けろ』ってよ。」
「無茶言うな。お前の筋肉はある意味才能だろ。誰にでも真似できるもんじゃねぇんだよ。」
うん、とりあえずジャックから教わるのは止めておこう。
ソーオウの言う通り、ジャック以外でそんな事を出来そうな人を見たことが無い。
「幸い、オレは元居た世界では自警団に所属してたからな。多少なりとも剣を扱うことだって出来るんだ。」
「でもお前、そんなに強くはねぇよな。」
「ジャックと比べたら大体の奴は雑魚扱いだろ。とにかく、リョータの訓練ならオレが受け持つぞ。」
ソーオウがそう言って肩を組む。
実力の程は分からないが、それでも体格的にジャックよりは見習いだろう。
「まぁ、訓練を重ねて実力を付けてきたら、実戦経験のあるジャックと模擬戦でもすればいい経験にはなるだろ。」
「それ、下手したら俺が大怪我するんじゃ………?」
「なーに、多少怪我しても勉強を教えるのに支障は出ねぇだろ。精々そうならねぇように頑張りな。」
経験を積むのは良いけれど、ボコボコにされるのは嫌だぞ。
全身に包帯を巻いて授業なんてしたくない。
自分の身を守る以外の、いや自分の身を守る為でもあるんだけど、強くならなくてはいけない理由が増えたな。