異端の理由
「私の中の原罪、暴食よ、鎮まり給え……………!」
「アニー?おーい、どうしたアニー?」
「はっ!すみません、何でしょうか?」
先程から会話に混ざらず、静かにしていたアニエスが気になり声を掛けようとする。
そこには何かをブツブツと呟くアニエスの姿があった。
「それはこっちのセリフだ。ブツブツ言ってたけど、どうしたんだ?」
「えーと、それは………。」
「さしずめ、ジャガイモを食べてみたい、しかしウハヤエ教では異端とされている。だからその二つを乗せた天秤が揺れ動いていたと言ったところかな。」
フリードは冷静に分析をするが、そんな理由で葛藤していたのだろうか。
流石にそれは………
「一瞬で私の葛藤を理解するなんて………流石はフリードさんですね!」
「いや暴食がどうこうとか言ってたから分かっただけなんだけど。まぁそこはいったん置いておくとして、どうしてこの食べ物が異端なんて扱いされているんだい?」
「それは確かに俺もさっきから気になってた。もしかして教会の人が間違って芽が出たジャガイモを食べたからとか?」
フリードの分析の通りだった。
そして同時にフリードはずっと俺が疑問に思っていた質問をしてくれた。
どうしてそこまでジャガイモが敵視されているのかと言う問いかけを
「いいえ、理由は簡単ですよ!」
「簡単?」
「はい!聖典に載っていないからです!」
「は?」
「………………はぁ、愚かしい………。」
え、聖典?
どういう事だ、それ?
聖書的な存在に記載が無いから食べたらダメって………。
フリードも眉間に皴を寄せて溜め息を吐いている。
「えーと、ちなみに神様が書き忘れたって可能性は?」
「それはあり得ません!主は完璧であり、間違いを犯さない存在だからです!」
「そういやオレのいた村の神父様もそんな感じの事を言ってたな。」
「宗教と言う物は民心を慰撫する事に役立つが、盲目的に信じられると停滞や退廃に通じる事例はどこでも同じなんだね。」
アニエスは神様は完璧と主張し、ワーズギーはそれに同調し、フリードは忌々し気に吐き捨てる。
アニエスの信仰を否定するつもりはないが、フリードの言いたい事も分からないでもない。
「君たち宗教家は常々、神の試練や恩寵を語るけれど、それは聖典に記してあるのかな?」
「それは、そう言う訳ではありませんけれど…………。」
「つっても試練がいつ来るか分かったら試練にならねぇんじゃねぇの?」
「しかし聖典に記されていないのであれば試練であれど異端と言う事ではないのかな?そんな異端を神からの試練として捉えること自体が不敬ではないのかな?」
「うーん………。」
宗教の議論は続くが、答えは出ない。
正直、宗教とは関わりの薄い人生を送って来たから口を挟めない。
そんな中、様子を窺っているとアニエスは力強く宣言する。
「いいえ、これはきっと試練です!この誘惑に耐えてこそ、耐えてこそ…………!(ぐぅ~)」
アニエスは両手を合わせ、顔の前に掲げ、片膝を付く。
いわゆる祈りのポーズを取って誘惑に抗おうとする。
いや、めっちゃ食べたそうなんだけど。
試練に負けそうになってるんだけど。
お腹鳴ってるんだけど。