『聖者』としてじゃなくて『アニエス』として
「その、皆さんはどうしてここに……?しかもあんなところから……」
「まぁいきなり知り合いが二階にあるバルコニーから現れたら驚くよな。」
「かいつまんで話すと、前に王都でアニーと会った時にいつもと違う雰囲気で心配になったから会いに来たんだよ。でも真正面から教会の人に会わせてほしいって頼んでもダメだったから忍び込んだんだ。」
「忍び込んだんですか!?」
「普通に合わせてほしいと頼んだら捕まって牢屋に入れられましたね。」
「牢屋に!?」
「ちなみにその時は鉄格子をひん曲げて脱獄して来たぜ!」
「脱獄!?」
困惑しているアニエスに事情を説明すると、一つ話をするごとに声を上げて驚き、以前の彼女のような表情が顔を見せる。
教会に戻って以降、僅かに見る事の出来た彼女の姿は重苦しい雰囲気を纏っている姿のみであったため、喜ばしい気持ちになると共に、『これまでの話を聞けば誰だって同じような反応をするだろうなぁ、思い返せばとんでもない事をしているなぁ』と言う僅かばかりの哀愁を感じる。
「失礼しました。ちょっと驚き過ぎました。」
「いや、前みたいに話が出来るなら嬉しいよ。と言うより、何があったんだ?雰囲気も喋り方も前とは大違いだ。」
「その、畏れ多くも『聖者』と言う教会でも特別な立場に列して頂けるようで、その名に相応しい振舞いをしなくてはならないので……」
「聖者の話は前に教会の人から聞いたな。やっぱり重荷になってるのか?」
アニエスは表情を取り繕って軽く一礼する。
話を聞く限り、どうやら彼女は聖者の名に恥じない姿でなくてはならないようで、それがあの雰囲気に繋がっていたのだろう。
しかし『聖者』と言う名称に対し、あの雰囲気は厳かさこそあったが、彼女の為人を知る身としては辛さや狭苦しさを先に感じさせ、神聖さと言ったものは感じられなかった。
やはりその立場こそが彼女を苦しめているのでは、型に嵌めて彼女の在り方を歪めているのではないだろうか。
「そのような、事は……確かに私なんかで務まるのか不安に思う事も多々ありますが、認めて頂けるよう、相応しく在れるよう、努力していかなくてはなりません。」
「生真面目っつーか、なんつーか……」
「モルダみたいに、とまでは言いませんが、もう少し肩の力を抜いても良いのでは?」
「え?なんで今オレ引き合いに出されたの?」
「日頃の行いだろ。」
「あはは……皆さんのおかげで元気を貰えました。ありがとうございます。私はまだ大丈夫です。まだ、頑張れますから……」
「……なぁ、アニー。『聖者』としてじゃなくて『アニエス』として、お前はどうしたいんだ?」
「それは…………」
モルダを弄るやり取りにアニエスはクスリと笑って柔らかい表情を見せ、しかし次の瞬間にはまた表情を引き締めて感謝の言葉を告げた。
その姿はやはり無理をしているようにも見え、俺は彼女に一つの問いを投げかけた。




