『新世界』
「あれは三年前の事でした……。」
ディーゴは陰りを見せた表情のまま話を始める。
「ボクの義父、クリストフは航海へと漕ぎ出しました。」
「話し始めてもらってすぐで悪いんだけど、義父って言うと、そのクリストフって人とディーゴ会長の血は繋がってないのか?」
「えぇ、ボクはかつて貧しい家の生まれだったのですが、どうしてか分からないのですが義父に気に入られたようで引き取られたのです。」
「オレは会った事無いけど、ジャックならクリストフとも会った事があるらしいぜ。」
「そうですね。何の話をしていたのかは分かりませんが、義父とジャックさんが会合している姿は何度か見た事があります。」
本筋とは関係のない事ではあるが、気になる事があって思わず話の腰を折ってしまう。
聞くところによるとディーゴは養子らしい。
彼を引き取ったクリストフがどのような理由で養子にしたのか、どのような人物なのか気になるが、そこはいったん置いておくとしよう。
「話を戻しますが、その時に言っていたのです。『新世界を目指す』と。」
「『新世界』?聞いた事が無いけど、それってどこの事なんだ?」
モルダでも『新世界』の存在は知らないようでディーゴに尋ねる。
「それがボクにも分からないんです。ただそれに続けて『商会の事は任せたぞ。そうだな、この機会に商会の名前もディーゴ商会に改名するか!』と言われまして……ただ正式な形で商会長の立場を任されたわけでは無いのであくまでも代理とさせて頂いております。」
しかしディーゴも『新世界』に関しては知らないようだ。
正式では無いものの、商会を任されたと言うのであれば、確かにジャックから『差し伸べる手』を一時的に任された俺と似通っていると言えるだろう。
「その後、一年、二年と時が過ぎましたが、義父は一向に帰って来ないのです。通常であれば長くとも一年あればこちらに帰って来ていたのですが……」
「「…………」」
海難事故にでもあったのでは、と思ってしまうが、それを告げる事が出来ない。モルダも同様に沈黙している。
しかし少なくとも死んだことが確定した訳では無いのなら、希望を捨てる訳にはいかない。
そういった面でも、共和国騒動の件で行方不明のタガミ先輩を探している俺と彼は近しいのかも知れない。
「一年経っても帰って来なかった時点で捜索を始めましたが、『新世界』がどこか皆目見当もつかず、探し続けてはいますが未だに見つかっていません……」
探し続けてきた二年間の重みを感じさせるディーゴ。
その間にどれほどの苦労があったのかは計り知れない。
気が付けば俺は彼に強い親近感と敬意を抱いているのであった。