港に面した商会の建物で一番大きい建物
日中はネーシアから借りた馬車で道を往き、森を超え、山を越え、日が暮れれば各地の宿で夜を越しつつ、一週間が過ぎた頃。
「見えて来たぞ。あそこがルーメンだ。」
「あれが、ルーメン……」
「き、きれいな街ですね……」
家々の白い壁、面した海は穏やかに揺れながら空の雲を水面に写す。
街の路地ではどこもかしこも多様な商品を並べた商人が景気よく客寄せに声を張る。
港を見やれば大きな船が何隻も並び、船乗りは忙しなく出航の準備や荷下ろしに精を出している。
そして街の中心部には……
「あれがウハヤエ教の総本山、か……」
「お、王都の教会と比べても遜色ないくらい大きいですね……」
「本当にすげぇよな。ルーメンまで来た甲斐があるってもんだぜ。」
「……一応言っておくけど、観光に来た訳じゃないからな?」
「分かってるって。でも楽しめる時に楽しんどかないと損だろ?」
ナーヤが言うように王都の教会に勝るとも劣らない絢爛さで、巨大なステンドグラスが目を引く。
頂上には登楼があり、巨大な鐘が時を告げる。
王国に広く信じられている宗教組織の総本山として納得の威容だ。
しかしモルダの暢気な態度に僅かに抱いていた緊張感も霧散した。
彼の言わんとする事は分かるが、もう少し真面目にしてほしい。
「さてと、それじゃあディーゴ商会の本部に向かうとするか。」
「た、確か港に面した商会の建物で一番大きい建物、でしたよね……?」
「あぁ、そうだけど……」
実際に港まで来て周囲を見渡すが、どこもかしこも商会、商会、商会。
港自体もかなり広範に続いている。
この中から一番大きいと言う情報だけを頼りにたった一つの建物を探すのは困難だろう。
「そもそも港が広すぎるし、それに面した商会も山ほどあるぞ……」
「しらみつぶしに……ってのは賢くねぇよな。」
「あ、あの……」
「ん?どうした、ナーヤ。」
「た、たぶん、あの建物だと思います……」
俺とモルダが頭を悩ませていると、控えめにナーヤは一つの建物を指差す。
2区画ほど離れたそこには確かに大きな建物があったが、他にも大きな建物は点在しておりにわかに信じがたい。
「確かに大きいけど、他の建物も大きくて一番かって言われると分からないぞ?」
「まぁでも試しに見に行ってみるか。当たってたらラッキーだしよ。」
大した手がかりも無いのでモルダの言う通り、試しにその建物を見に行ってるとそこには潮風に当たる所にありながらも良く磨かれた看板があり、『ディーゴ商会』と記されていた。