ディーゴ商会のお得様
『差し伸べる手』の拠点を出た俺たちはすぐに王都を出る、訳では無く何やら高級そうな店に来ていた。
その店にはこの世界に来てからは見ていないような、エキゾチックと言える品々がまばらに並んでいる。
この店に連れてきたモルダは店員と二言三言話をしてこちらに戻って来て店内を眺める。
何故この店に来たのか首を傾げてモルダに問うが、『ちょっと待っててくれ』と言われて答えてくれない。
仕方がないのでしばらく店内で待っていると、店の奥から恰幅の良い女性が出てきた。
「久しぶりだねぇ、モルダ。ジャックは元気かい?」
「ネーシア、久しぶり。ジャックはちょっとこの前の騒動でケガしてさ、今は休んでんだ。」
「そうかい。早く良くなると良いねぇ。それでそっちの坊やは?新入りの顔見世に来たって訳でもないんだろう?」
「初めまして、ユーキ・リョータって言います。」
「こいつはジャックが休んでる間『差し伸べる手』のリーダー代理を任されてんだ。」
「へぇ、若いのにジャックに認められるとは大したもんだねぇ。アタシはネーシア。このネーシア商店の店主だよ。」
「そんでもってディーゴ商会のお得様だ。」
「なんだい、ディーゴの坊や絡みの話かい?」
「ディーゴが坊や呼ばわりを聞いたら起こるだろうな。」
「あの子がこんなに小さい頃から見てきたんだ。アタシにとっちゃいつまで経とうともあの子は坊やだよ。」
世間話を交えながら自己紹介をする。
恰幅の良い女性はネーシアと名乗り、俺が『差し伸べる手』のリーダー代理と聞くと感心したように目を丸くして褒めてくれた。
正直言ってまだリーダーとして相応しく在るとは思えないけど、それでも嬉しいものだ。
「えーと、結局どうしてここに来たんだ?」
「おっと悪い悪い、話が逸れたな。」
しかし自己紹介が済んだ後も世間話が続き、肝心の本題に入りそうになかったので口を挟んで軌道修正する。
「ネーシア、ルーメンに行くから馬車を貸してくれ。」
「モルダのとこにだって馬車はあるだろう?」
「個人的な理由だから、他の連中も交易とかで使う馬車を使っちまうと困るだろう?それにネーシアにもメリットはあるぜ。」
「対価は?」
「共和国騒動以降、ディーゴ商会と取引出来てないだろ?帰りに商品を仕入れて来る。オレたちは足が手に入る。仲間たちには迷惑をかけない。ネーシアは商品が仕入れられる。ディーゴ商会は商品が売れる。皆不満は無いはずだぜ。」
「いいよ、使いな。実際、販路がダメになったところもあって余らせてたのは事実だ。」
「ありがとう、助かるぜ。よし、足は手に入れたし、行くとするか。」
「…………」
「ん、どうした?」
「あ、あぁ、何でもない。行こう。ネーシアさんもありがとうございます。」
内心、モルダの事はあまり頭を働かせる人物では無いと思っていた為、ネーシアと交渉をする姿に意外さを覚えて呆けてしまった。
しかしそれを本人に言って怒らせる必要もないため、誤魔化してネーシアに礼を言う。