ならば頼るべきは……
「『聖者』って死後にしか呼ばれないんですか?」
「えぇ、死後にその名を賜るので生前から『聖者』と称された人物は一人としていません。優れた人物が偉大な働きをしたとしても、候補として考えられる事こそあれど、その称号は死後にのみ与えられるのです。」
『聖者』の称号は死後にのみ与えられる。
これは教会関係者にとっては共通見解で違いなさそうだ。
それなら、と一歩踏み込んだ質問をしてみる。
「一つ聞いた話なんですが、生きている状態で『聖者』になる人がいるって……」
「さて、その話は分かりかねますね。」
「しかし先ほどロオ大司教が」
「あくまでも一司祭として主に仕えている私にはそういった上層部の話は耳に出来ません故、事が決まった後に知らされるのです。」
存命中に『聖者』になるという人物の話を出すと、神父はスンとした表情で知らぬ存ぜぬと返される。
彼の口調こそ変わらないが、その表情と返答は明確に壁を感じさせた。
「それならアニエスって名前のシスターがどこにいるか」
「分かりかねます。」
「もしも生きていながら『聖者』の称号を与えられる事が決まったらどう思いますか?」
「分かりかねます。」
「…………。」
これ以上は何を聞いてもダメそうだ。
何も答えてくれないどころか神父の視線は厳しい物になりつつあるような気がする。
仕方がないのでここは引き下がるしかない。
「忙しい中ありがとうございました。俺はこれで失礼します。」
「貴方に主のご加護があらんことを。」
軽く一礼して神父の下を離れ、教会を後にする。
恐らくここの教会の関係者に話を聞こうとしても答えてくれない可能性の方が高いだろう。
アンジェロのような人物もいるだろうが、これ以上教会の内部をうろうろしていると変に警戒されかねない。
少なくとも日を改めるべきだ。
それにあの神父の視線も気になるところだ。
信徒でないからなのか、転生者だからなのか、それ以外の理由なのか。
そこも明らかにしないと調査も頭打ちになってしまうだろう。
「お、リョータ、お帰り。どこに行ってたんだ?」
「あぁ、ちょっと教会に。」
「教会、か……アニーは元気にしてるかなぁ……」
「…………。」
拠点に帰ると休んでいたモルダに迎えられ、行先を聞かれた。
まだ皆には王城でアニエスと出会った話はしていないので、要件についてはぼかしておく。
しかし教会と聞いたモルダは懐かしむように目を瞑ってアニエスの心配をする。
皆にも王城での再開の件を話すべきだろうか、皆にも知恵を借りるべきだろうか?
再開したあの日は時期尚早として胸の内にしまっていたが、教会の関係者に話を聞くだけでは限界がある。
アルステッドに相談しようにも王位継承の件で忙しいだろう。
フリードも時期が時期だけに同じく忙しくしているだろう。
ならば頼るべきは……