『聖者』の称号を与えるべき
「とまあぁ、このような理由で彼女が教会内で一定の地位を築くに至ったと言う訳ですよ。」
ロオの話を聞いてアニエスについて考えを巡らせていると、彼はパンッと手を叩き話をまとめる。
「彼女の働きを評価して、本来であれば一部の多大な功績を残した者が死後にのみ与えられる『聖者』の称号を与えるべきであるとの主張もありましてね。それだけの行いをしたと言う事です。」
聞けば聞くほどとんでもないところまで登り詰めている、と言うよりは登らされていると言った感じだ。
「さて、話が逸れてしまいましたが、そのアニエス様の様子がおかしかったと?」
「はい、以前共に過ごした頃と比べて、ですが……」
アニエスが様付けで呼ばれている理由の話を切り上げ、本題であった王城で再開した時の様子の話に戻る。
あの時の彼女は間違いなく『差し伸べる手』に居た時よりも重く暗い雰囲気を漂わせていた。
「ふむ、なるほど…………」
ロオは顎に手を当てて考え込む素振りを少しした後、沈痛な面持ちで頷いて話を続ける。
「恐らくは環境の変化が主だった原因だとは思うのですが……確かに平穏が戻った後、彼女を始め、他の避難していた者たち、帰るべき教会を失った者たちをルーメンに招集しました。その者たちには戦争で傷付いた人々の心を癒すために各地へ派遣していたのですが、やはり負担が重かったのでしょうか。大変な時期が故に無理をさせ過ぎたとあっては主にお叱りを受けてしまいますな。」
眉尻を下げて懐からハンカチを取り出したロオは自身の額に薄っすらと浮かんでいた汗を拭う。
しかしアニエスが忙しいからと言った理由であのような雰囲気を纏うのだろうか。
確かに辛い時、悲しい時に落ち込む事もあるが、彼女の性格を鑑みるに、そういった傷付いた人々と触れ合う事でより一層奮起しそうな精神性をしていると思うのだが…………
「リョータ殿の諫言、ありがたく受け取らせて頂きましょう。今後の人事に関しては改めて皆と協議させて頂きます。さてご用件は以上ですかな?何分私も多忙な身の上でしてな。」
「忙しい中、話を聞いて頂きありがとうございました。」
アニエスの現状を説明し終えたロオは、話は終わりだと言わんばかりに会話を切り上げた。
実際大司教と言う地位なのだから忙しいのだろうけれど、どこか怪しさを感じる。
振舞いや言葉遣いは丁寧で穏やかそうな雰囲気を感じさせ、言っている事も真っ当なのだが、王城で出会ったレナードや先程出会ったアンジェロと比べてどこか裏がありそうと言うか、胡散臭いのだ。
しかしこれ以上話は聞けそうにない事に変わりはないので引き下がるしかない。
取り敢えず先程の会話に出てきた『聖者』と言う単語に引っかかりを覚えたので、それについてあたってみよう。