信仰が為
「待って下さい!」
「止めるのかい?それなら代わりに君が信仰を示してくれるのかな?」
アニエスがフリードを止めようと叫び、それを聞いた彼は剣先を太った修道士からアニエスに向ける。
「信仰なら既に示しています!」
「では主は君に加護を与えられたと?」
「それは分かりません!そもそもご加護を求めて主を敬っている訳ではないのです!」
「それが君の答えかな?」
「はい!それに教区長たちを助ける為にここまで来たのに、教会の仲間を見捨てちゃったら自分の命惜しさに逃げただけになっちゃうじゃないですか!」
「彼らは君を見捨てようとしたよ?」
「他人に見捨てられたからと言って、自分が他人を見捨てて良い理由にはなりません!」
「ここで彼らを助けたとしても、彼らが改心して君を助けてくれるとは限らないよ?」
「見返りを求めて他者を助けている訳ではありません!『汝、隣人を慈しめ』の教えに従っているだけです!」
しかし、アニエスは突き付けられた剣にも怯むことなく、フリードの眼を見て問いかけに答えていく。
これまではどこか頼りない、元気なだけの少女かと思っていたが、今この瞬間にそのイメージは崩れていく。
彼女もまた、紛れもなく強い信念を持った人物だったのだ。
「君の信仰は見せてもらった。」
そしてアニエスの答えに満足したフリードは剣を降ろす。
すると何故かこちらを向いて声を掛けて来た。
「それからそこの君、勇気と無謀は違うけれど、それはそれとしてさっきの行いは悪くなかったよ。」
「え、俺?」
「彼女があの腐った口で信仰を騙る連中に詰め寄られている時に助け舟を出そうとしただろう?『差し伸べる手』の新入り君、これからに期待だね。」
俺達に微笑みかけるけど、ついさっき唐突に修道士に剣を突きつけた光景が脳裏に鮮明に残っているから怖い。しかも修道士の事をめちゃくちゃボロクソに言ってるし。
ジャックさんが見た目『だけ』はまともと評価していたのを今になって理解した。
修道士に剣を突きつけている時の眼が、リエフの街から脱出する時に現れたニコライと同じだったのだ。
容赦なく、躊躇なく、やると決めた瞬間には既にやっている。
そんな雰囲気を纏っていたのだ。
「まぁとりあえず、よろしくね?」
先程と変わらない笑顔で手を差し出す。
正直、信用していいのか分からない。
しかし、
「………よろしくお願いします。」
「堅苦しいね。敬語はいらないよ。」
「分かり………分かった。」
俺はその手を握り返す。
差し伸べる手の仲間ではないが、ジャックさんが信頼する人ならば一先ずは恐れるよりも信じてみよう。