表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生後輩  作者: 一之三頼
第3章 教皇と■■
229/247

我々ももっと早く動くべきだった

「ふむ、その表情を見るに彼女が何故評価されているのか理解できないと言ったところですかね。」

「正直なところ、その通りです……。」


どうやらロオは俺の表情から考えている事を読み取ったようでピタリと当ててきた。

そこまで表情に出していたつもりは無いが、それでも歩んできた人生経験からか、老練な大司教にはお見通しだったようだ。

僅かに慄きつつも、俺は大司教の読みを肯定する。


「では教えて差し上げましょう……と言っても大それた話ではありません。以前、ジョセフなる大逆の徒が国を乱した事は記憶に新しいでしょう。その際に我々教会の人間は共和国を名乗る反徒に虐げられ、迫害されていました。」

「…………。」


アニエスからも聞いた話だ。

彼女の居た教会は打ち壊され、恩人の司祭はその命を落とした、と。

その悲しみに彼女が涙していたことは今でも覚えている。


「この教会も今でこそかつての姿を取り戻しつつありますが、反徒どもが権勢を握っていた時には酷い有様でした。しかしどれだけ不満を抱こうとも、我々には武力は無く、反抗も出来ぬまま教会を追い出され、時として反徒に連行され処刑の憂き目に遭い、それでも隠れ潜んで人々を慰撫して日々を耐え忍んでおりました。」


悲劇に遭ったのはアニエスだけではない。

教会に属する人々は等しく苦境の中にあったのだ。

そのような理不尽に苦しめられながらも、暴力に頼らない形で抵抗を続けたのだから立派なものだろう。

それに俺たち『差し伸べる手』も彼らと同様に自分たちが主体となって抵抗出来た訳では無い。

多くの人々の助けがあり、微力ながら多くの人々の為に力を尽くしてきた。

だからこそジョセフたちを打ち倒せたのだ。


「しかし彼女は行動した。ホーエンゼレル公と渡りをつけて王国勢力と手を取り、人々の苦境を訴えた。大きな『流れ』を作り出した。」


話を聞く限り彼女が能動的に動いた結果の様に聞こえるが、実際の所は偶然フリードと出会って策謀に巻き込まれたようなものなのだが、傍から見ているとそのように見えるのだろうか。

思わずその点を指摘しそうになるが、それを言ってアニエスの状況が悪くなったり大司教から不興を買う可能性もあったので口を噤んでおく。


「悪い言い方になりますが、我々は現状を変えられなかった。物理的な抵抗が出来なかった。嵐が過ぎ去るのを、身を屈めて待つしか出来なかったのです。そうすれば我々が蜂起せずとも貴族たちが解決してくれると、そう思っていたのです。」


彼の言うように共和国の振舞いを見て見ぬふりをしようとする教会の人間も実際にこの眼で見ていた訳だし、抗えずに歯がゆい思いをしていた人々はそのように悔いてもおかしくはない。


「しかし我々ももっと早く動くべきだった。そうすればより多くの悲劇を防げたはずなのですから。」


だからこそ自分たちの在り方と、巻き込まれたとは言え行動した事になっているアニエスを省みて彼女が評価されているのだろう。

しかしそれならばあの時王城で見せた暗い表情は一体何だったのだろうか……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ