教会が彼女を正しく評価したまでの事ですよ
アンジェロの教えてくれた道を進み、俺は教会の奥へと進んで行く。
その道中にもちらほらと高価そうな調度品や歴史の深そうな宗教画が目に入る。
いったいどれだけの価値があるのか想像もつかない。
しかしそれを見ていると、やはりアルステッドに要求した資金提供はラディウムでの活動を援助する約束を取り付けるための断られることを想定した要求では無いだろうかと、より一層思うようになる。
「ここか……」
幸い、道中では誰かに会ったりして教会の奥へと進んできたことを咎められることも無く、突き当りの部屋へと辿り着けた。
もっとも、誰かに出会って何か言われたとしてもアンジェロに言われたことを説明すれば良いのだが。
ともあれ俺はロオが居るであろう部屋の扉をノックする。
「どうぞ。」
部屋の中からは入室を促す声が聞こえてくる。
そして扉を開けて足を踏み入れる。
「失礼します。ロオ大司教でいらっしゃいますか?」
「どなたかな?今日は来客の予定は無かったはずだが。それに見た所部外者のようだが、どうやってここに?」
「俺はユーキ・リョータと言います。アンジェロさんから、ここへ来ればロオ大司教に会えると聞きまして、大司教に伺いたい事があって尋ねさせて頂きました。」
「…………なるほど。では、何を聞きたいのかな?私に答えられる事であれば良いのだが。」
ロオは一瞬目を瞑って逡巡した後、口調こそ丁寧だが感情を窺わせない目で俺の質問を促す。
その姿に謎の圧力を感じながらも、俺は口を開いて聞くべき事を、聞きたかった事を声にする。
「実はある人物を探していまして……」
「私に尋ねると言う事は教会の関係者かな?」
「はい、アニエスと言う女性なのですが……」
人探しと言っただけで状況から教会関係者であることを導き出すロオ。
当たり前と言えば当たり前だが、その察しの良さのお陰で話がスムーズに進められる。
ロオにアニエスとの関係、王城で会った際の普段と違っていた様子の事などをかいつまんで説明する。
「なるほど。確かにアニエス様の事は私も存じていますよ。」
「気になっていたんですが、アニエスってそんなに偉い立場なんですか?以前の内乱の際に保護していた時に聞いた話では、そこまで教会内で上の位に居たとは聞いていないのですが……」
「教会が彼女を正しく評価したまでの事ですよ。」
正しい評価?
いったい彼は何を言っているんだ?
俺は王城でアニエスと会った時と似たような困惑に襲われる。
少なくとも彼女から聞いた教会時代の生活で、様付けされるような行いをしたなど一度たりとも耳にはしていない。
ならば、何故ロオは教会がアニエスを評価しているから、などと言うのだろうか。