荘厳にして絢爛なる教会で
アニエスと再会した翌日、俺は時間を作って王都の教会へと足を運んだ。
必ずしもここにアニエスがいるとは限らないが、それでも話を聞く事くらいは、情報収集くらいは出来るはずだ。
王都の拠点に居ながらも教会には行った事が無く、王城のある街区を越えて進んだ先で目にした初めて訪れるそこは荘厳にして絢爛の一言に尽きた。
「凄い…………」
王城ほどの規模では無いが、それでも圧倒的な巨大さ。
白い壁面は僅かに汚れこそあるが、それでも正面入口の上にあるステンドグラスの輝きの前には些細な問題だった。
その存在感に気圧され、言葉を失う。
そして自身が場違いではないだろうかと疑いが湧いて来る。
実際にはそのような事は無いのだろうが、高貴な人間と選ばれし信徒のみが足を踏み入れる事が許されるかのような拒絶性を感じてしまうのだ。
「行くか…………!」
しかしだからと言ってここで立ち止まっている訳にもいかない。
通行の邪魔になりかねないし、何よりここで足踏みしていてはアニエスに会う事も、ましてや情報を集める事も出来ない。
意を決して扉を開けて教会の中に入ると、そこには祈りを捧げている人や何をするでもなく席に腰かけている人、掃除をしている人、説法している人などが居て、まばらに各々の過ごし方をしていた。
取り敢えず礼拝堂の片隅で掃除をしていた教会の関係者と思しき老人に声を掛ける。
「あの、すみません。」
「はい、何か?」
「少し聞きたい事があるのですが……」
「ワシに答えられる事なら。」
穏やかそうな白髪の老人がこちらに向き直り、話を聞いてくれる。
親切そうな人で良かったと思いながら簡単に事情を説明するが……
「アニー、いえアニエスと言う名前のシスターをご存知ですか?ルーメンに居るシスターなのですが、先日王城で見かけましてこちらにいるのではないかと思いまして。」
「シスターアニエスですか……存じてはおりますが、詳しくは無いですな……」
老人は知ってこそいるが、詳しくはないと言った答えを返す。
それを聞いた俺は僅かに肩を落としながら他の人にも聞いてみようと思い、踵を返そうとするが、その前に老人は言葉を続ける。
「ですが、ロオ大司教なら詳しいかと。この時間ならそちらの廊下を進んだ突き当りの部屋にいるはずですので、向かわれると良いでしょう。」
「ロオ大司教、ですか。分かりました。えーと……お名前を聞かせてもらっても?」
「ワシの名前はアンジェロです。」
「俺はユーキ・リョータって言います。アンジェロさん、ありがとうございました。」
老人は礼拝堂の奥を指して道を示す。
ロオと言うと、以前アルステッドに多額の資金提供を突き付けた大司教だ。
そんな人物の所に行ったとして話を聞いてもらえるのだろうか、いや、どうなるかは分からないが、行かなくてはならない。
俺は老人に感謝の言葉を告げて教会の奥へと足を踏み入れるのであった。