再開と困惑と
「アルステッド様。」
「む、時間か。リョータ、今回は話を聞いてもらって助かった。幾分か気が楽になった。」
ベックが部屋の外からノックをしてアルステッドを呼ぶと、彼は手元の書類を手に取り、何かしらの準備を始める。
「それは構わないけど、何か予定でもあったのか?」
「呼んでおいて済まないが、これから先程話した件について臣下らと話し合わねばならん。」
「そうか……俺で良ければいつでも呼んでくれ。どこまで助けになれるかは分からないけど、話し相手くらいにはなれるからさ。」
「感謝する。また後日、教会の件とは別の相談の為に呼ばせてもらいたい。」
「あぁ、分かった。」
どうやら会議の予定があったようで、これから向かわなくてはならないようだ。
結局、彼の話していた教会の問題は解決しなかったし、もう一つの相談は聞けなかったが、相手も多忙な身の上であるだろうし、会議がある以上この部屋に留まり続ける訳にもいかない。
その会議で教会の件の話がまとまる事を祈るばかりだ。
「さてと、俺も拠点に戻るか。」
アルステッドの執務室から出て廊下を歩いていると……
「あれ……?」
偶然にも懐かしい顔が視界に入る。
「アニー!久しぶりだな!」
「あっ……リョータ様。お久しぶりです。」
ラディウムから戻った時には既にルーメンに発っていたアニエスが王都に、それも王城にいたのだ。
何人かの教会関係者と思しき付き人と共に粛々と廊下を歩く彼女を目にし、思わぬ再開に俺は喜びを隠さず声を掛けるが、その反応は芳しいものでは無かった。
いつもの彼女であれば笑顔で再開を喜んだはずだが、今の彼女は静かに感情を見せる事無く挨拶を返す。
「……アニー?調子でも悪いのか?なんだか」
「失礼。アニエス様は多忙につき、親睦を深めている時間はございません。」
「すみません……失礼、致します……。」
「アニ、エス……?」
普段とは全く違う彼女の雰囲気に違和感を覚え、話を聞こうとするが、彼女と共に居た付き人らしき人物が間に割って入り、短く断りを入れてアニエスと共に去っていく。
一瞬の出来事に困惑が隠せない。
アニエスは一体どうしてしまったのか。
何故彼女がここにいるのか。
何故彼女が様付けで呼ばれ、付き人らしき人物がいるのか。
何故あんなにも沈んだような、重苦しい雰囲気を漂わせているのか。
何故、何故、何故……困惑と疑問と悲しみが綯い交ぜになり、思考がまとまらない。
気が付けば俺は『差し伸べる手』の拠点へと帰って来ていた。