ロオ殿は冗談がご上手のようだ
「一つはウハヤエ教の扱いに関してだ。」
「ウハヤエ教?一応知ってはいるけれど、信徒でもなければ、ましてや詳しい訳でもないぞ。」
一つ目の相談事は宗教に関して。
しかし聞いた瞬間に人選を間違っているのではないかと疑いたくなった。
詳細こそ聞いてはいないが、名前を聞いた事がある程度で教義も何も知らないのに相談に乗るなんて不可能に近いのではないだろうか。
「それでも構わない。いや、むしろその方が良いと言えるか。」
「その方が良い?どういう事だ?」
「王都を始めとした本土の各地では教会の影響が強く、周囲にはウハヤエ教徒はいくらでもいるが、その逆はいない。そして私の居たラディウムではウハヤエ教はあまり影響力が無く、私自身も馴染みがない。では私以外のウハヤエ教徒でない者はこの問題に対し、どう考えるのか、どう感じるのかを聞きたくてな。」
「まぁ、そういう事なら俺は構わないけど……」
「ありがたい。これは先日の事なのだが……」
アルステッドがそう言うのであれば異論はない。
どこまで参考になるかは分からないが、取り敢えずは話を聞かせてもらおう。
数日前
「アルステッド様、お初にお目にかかります。私はウハヤエ教会の大司教を拝命しておりますロオと申します。以後お見知りおきを。」
「ロオ殿か。既に知っているとは思うが、次期国王のアルステッドだ。よろしく頼む。」
王城の執務室には椅子に腰かけたアルステッドと、跪いて頭を下げる大司教ロオの二人が居た。
「生憎と多忙を極めている故、すまないが前置きは省いて単刀直入に聞かせて頂こう。この度はどのような用向きだ?」
「無論、陛下が即位するにあたってのお話をさせて頂きに参りました。」
「あぁ、その件か。」
「即位にあたっては盛大な式を催させて頂きたく思っております。しかし各地の復興に多額の費用を投じており、このままでは即位式の費用が不足する事が見込まれます。故に陛下には申し訳ございませんが、恩寵を賜りたく存じます。また、陛下のご出身であるラディウム領では主の威光が陰りを見せているとか……。何卒陛下にもかの地での活動を承認、ご助力賜りたく。あまねく地で民に啓蒙する事は我らが務めです故。」
「ふむ……まず、前者について、具体的な費用はどうなる?」
「少なくとも金貨五百万枚は必要になるかと。」
「はっはっは!ロオ殿は冗談がご上手のようだ!」
ロオの要望を冗談と捉えたアルステッドは大きく笑い、少ししてロオを見やった。
その視線の先の大司祭は要望を伝えた時と変わらない表情でアルステッドの眼を見て話を続ける。
「いえ、冗談など申してはおりません。」
「……正気で申しているのか?」
「はい。」
「これから国家を立て直すと言う時にそのような余裕があると思っているのか?」
「恩寵を賜れましたら各地の復興費用に充てさせて頂くと共に、盛大な即位式をお約束頂きましょう。復興は言うまでもなく、即位式については陛下のご威光を臣民に伝え、団結を促す為にも必要なのです。これも全ては国家の、この地に住まう民草の為でございます。」
「……臣下と相談して決めさせてもらう。下がれ。」
ロオの要望にアルステッドは閉口して鋭い視線を眼前の人物に突き刺すが、それでもロオの話は止まらない。
それ以上話を聞くつもりは無いと、目線で示唆したアルステッドはロオを下がらせるのであった。
「と言う事があってな。」
アルステッドは辟易とした表情で大祭司とのやり取りを俺に聞かせてくれた。