孤独な物なのだな
ベックと話しながら王城へと向かうが、連れて行かれたのは玉座の間では無かった。
「アルステッド様、リョータ殿をお連れしました。」
「ご苦労。入ってくれ。」
ベックがドアをノックして声を掛けると、室内からアルステッドの声が聞こえてくる。
その部屋は以前、訪れた事のある場所だった。
かつて共和国騒動の際、共和国の指導者であるジョセフが居た執務室。
その中には椅子に腰かけて書類と睨み合っているアルステッドの姿があった。
「リョータ、よく来てくれた。」
「アルステッド様、ご機嫌麗しゅうございます。」
「今は公の場ではない。かつての様に接してくれ。」
「しかし……」
「ならば王命だ。次期ではあるがな。」
俺たちが入室すると彼は書類を机に置いてこちらに向き直る。
俺は彼に頭を下げ、礼を欠かないように挨拶をするも、昔の様に接してほしいと言われてしまう。
周りにはアルステッドとベックしかいないものの、次期国王にそれはまずいのではないかと思い、断る為の言葉を探す。
しかしこちらが言葉を発する前に彼は力強く命じ、次の瞬間に破顔して一言付け足した。
「そこまで言われたらこれまで通りの態度でやらせてもらうけど、良いのか?」
「王城で働く者らはどうにも親しみづらい。壁があり、私が楽にせよと言っても聞いてはくれん。上に立つ人間とは孤独な物なのだな。」
「それが当たり前なのですから、慣れてもらわなくては困るのですがね。」
再度確認を取るが、アルステッドの意思は固い。
彼は軽く溜め息を吐きながら以前の環境との違いからくる悩みを口にする。
ベックはそんな悩みにバッサリと回答するが、孤独に慣れてしまうのは寂しい事だと思う。
公の場では態度を改めるが、こういった場ではお言葉に甘えてこれまで通りに接する事にしよう。
「さて、愚痴はここまでとしておこう。今日リョータを呼んだのは、他でもないラディウムの問題解決に尽力してくれたお前にこそ相談したい事があったからだ。」
「問題解決って……俺は大したことしてないぞ?決め手になったのはフリードだし……何より最終的にラディウム公、前ラディウム公は……」
「人脈も、それを活かすのも重要な能力だ。それに領地が割れて内戦に発展する前に進む方向を変えられた。あとはユーステッドに任せる事にしよう。弟は……優秀だからな。」
謙遜と言うよりは本心から、大した働きが出来なかったと感じているが、それでもアルステッドは俺の事を評価してくれる。
朗らかに語る彼に俺も思わず嬉しくなって口元が緩む。
当事者にそう言ってもらえるのであれば、
しかしユーステッドの話をする際にはやはり思うところがあるようで、一瞬彼の表情が陰った。
「相談は二つある。」
その陰りもすぐに消え、いつもの顔色に戻ったアルステッドは人差し指と中指の二本指を立て、悩まし気な表情で話を始める。