貴方は今まさにラディウム公爵なのだから
フリードの来訪から一夜が明け、俺たちが訪れたラディウム城は厳かな雰囲気に包まれていた。
それもそのはず。
一悶着あったが、これからラディウム公爵の位が父から息子へと継承されるのだから。
「これより、継承の儀を始める。ユーステッド・ヴァーム・ラディウム。汝、ラディウム公爵として身命を賭し、封土を守り、臣民を慈しみ、国家を支える礎たれ。その剣は敵を滅する為に、その盾は同胞を守る為に用いよ。我らが主、ウハヤエの名の下において不義不徳に抗い、正しき行いをせよ……」
継承の儀はラディウム公が玉座から立ち上がり、その彼の前にはユーステッドが片膝を付いて頭を垂れている。
厳粛な雰囲気の中、俺はフリードやアルステッド、ラディウム公の家臣たちと共に沈黙してこの儀式の成り行きを見守っていた。
そして時が経ち……
「……アルバート・フォード・ラディウムが汝をラディウム公爵として承認する。」
長々としたラディウム公の訓示が終わり、ユーステッドがラディウム公として認められた。
「聖都にも使者を遣った。時期に承認の書状が届くであろう。王の承認については、アルステッドが玉座に着いた時に改めて使者を遣わす。簡略化したが、継承の儀は以上だ。」
彼の口ぶりでは公爵からの承認だけではなく、他の権威ある人々からの承認も必要とするらしいが、取り敢えずは継承の儀は無事に終わったようだ。
「もう口出しはせん。ユーステッド、貴様の好きにすると良いだろう……。」
「父上……」
「私は墓守でもして過ごすとしよう。あの時以来、墓参りに行っていなかった……いや、認められなかった……。いい加減、弔ってやらねばな……。」
短く息子と会話を交わした父は、彼に、玉座に背を向けて去っていく。
その背には初めて会った時の威圧感や威厳は無く、とても小さなものに感じられた。
「ユーステッド、いやラディウム公。改めて即位おめでとうございます。」
「よしてくれ。いつもの様にアルステッドで良い。」
祝辞を告げる際にいつもの様な口調で話しそうになってしまい、途中で言葉遣いを改める。
それを聞いた彼は苦笑いでそれを拒絶した。
「そう言う訳にはいきませんよ、公爵。貴方はその地位に就かれたのですから、これまでの様に奔放な行いは認めかねます。」
「マーク、オレは……」
「本来であれば兄君のアルステッド様がラディウム公爵となられていたでしょう。しかしラディウム公爵となったのは貴方です。望むと、望まぬとに関わらず。」
「……」
しかしユーステッドの臣下は彼の望みを否定する。
主の為に尽くすからこそ、諫言しなくてはならないのだろう。
主たるユーステッドは眉を下げ、僅かに寂しげな雰囲気で自身の気持ちを伝えようとするが、マークは否定も逃避もしようがない現実を彼に突きつけた。
幾つもの未来の可能性が存在したとしても、貴方は今まさにラディウム公爵なのだから、と。