幕間:ラディウム公 終幕
ラディウム公とジェーンが結婚してから五年後、王都で会議が行われる事となり、ラディウム公は出席、ジェーンもまた彼に付き添って本土へと渡った。
「すまんが会議が長引きそうだ。新たに議題が増えてしまってな……。」
「あら、そうなんですか?」
「あぁ。アルステッドとユーステッドもまだ幼い。ジェーンは先に戻ってあの子らの面倒を見てやってくれないか?」
「分かりました。アルステッドにはわたしの居た世界のお話をせがまれているから、きっと楽しみに待っているでしょうね。」
「む、その話は私も聞きたいな。」
「もう、アルバート様には何回も話しているでしょう?」
「だとしても、だ。ジェーンの話は何度聞いても飽きる事は無いからな。」
「ふふふ、アルバート様ったら……。」
幼い息子たちを鑑みて一足先にジェーンを帰還させる判断をしたラディウム公。
そしてジェーンを先に送り出した二日後、会議は終わり、更に十日ほど経って彼は自領に帰還した。
「笑えん冗談を言うな!ジェーンは先にラディウムに戻っている!二日前には到着しているはずだ!」
「冗談じゃねぇよ。本当に義姉貴は戻って来てねぇんだ。そもそもオレたちゃてっきり兄貴と一緒に戻ってくるもんだと思ってたんだぜ。」
「くっ、すぐに捜索隊を出せ!」
「お言葉ですが、公爵様。先程公爵様がおっしゃっていた二日前ですとラディウム近海では嵐が発生し、恐らく奥様は……」
「黙れ!何としても探し出すのだ!行け!」
しかしラディウムに戻って来た彼を待っていたのは愛しの妻ではなく、弟と臣下から告げられた『ジェーンは帰らず』の報せであった。
それでも彼は諦めず、臣下の諫言にも耳を貸さずに捜索隊の派遣を命令する。
「あぁ、ジェーン……。何故、何故このような事に……。」
誰もいなくなった玉座の間で天を仰ぐラディウム公の下に、一人の幼子が現れた。
「ちちうえ、おかえりなさい!ははうえはどこですか?もどってきたら、おはなしをしてもらうやくそくをしていたのですが……ちちうえ?ないているのですか?どこかいたいのですか?」
まだ幼い時分のアルステッドは母が帰らぬ事を知らず、自身の父に問い掛けた。
その無垢な問いに、彼は膝を付いて息子を抱きしめ、涙を溢す。
アルステッドはそんな父を心配する事しか出来なかった。
「彼女の為にも、家族を、我が領を守り、そして栄えさせねばならぬ。何者にも遮らせはせん。何者にも邪魔はさせん。私は私の成すべき事を成す。どうか、見守っていてくれ……。」
誰もその下に眠っていない墓前で、彼は決意を新たにする。
この後、彼はこの墓を訪れる事は無かった……。