修道士とシスターと問答と
「無事教会に着いた事ですし、早速お願いに行きましょう!」
「お願いって、何を頼むつもりなんだ?」
「それはもちろん、捕まってしまった皆を助けるために力を貸してもらうんです!」
扉を開け、教会の中に入ると、一般人と思われる人物は居らず、奥の方に三人の修道士と思しき男たちのみがいた。
アニエスは修道士たちに近づいて声を掛ける。
「すみません!ちょっと良いですか?」
「む?見たところウハヤエ教の者のようだが、何処からワシャールに?」
「リエフ郊外の教会から来ました!」
「ふむ、噂によると教会を燃やされたらしい………。」
「いやいや、不届き者どもに打ち壊されたとか。」
「違います!皆、兵士たちに捕まってしまったんです!だから皆を助ける為に力を貸して欲しいんです!」
太った修道士がアニエスに尋ねると、目元を覆うほどに前髪を伸ばした修道士と、過ぎる程に痩せ細った修道士が噂話を持ち出す。
「ふむ、しかしこれは主より与えられし試練やも知れぬ………。」
「であれば、我々が何かをするのは筋違いという物だぞ。」
「主より与えられし試練に我々が関与しては、主がお怒りになるはず。」
「そんな………!皆助けを待っているはずです!主は仰っているではないですか!『汝、隣人を慈しめ』と!助け合う事で私たちは生きているのだと!」
修道士たちは試練だ何だと言って手を貸そうとしない。
別に戦えと言っている訳ではないにも関わらず、見捨てるつもりの様に見える。
同じ宗教を信じる仲間に対して冷た過ぎではないか?
「いや、待たれよ。そもそのような状況になるなど、信仰が足りなかったのでは?」
「然り!真に主を信じているのであれば、ご加護があるはず!」
「それなのに囚虜の憂き目に遭うなど、信心が足らぬと言うこと………。」
「何を言っているんですか!?私たちは日々のお祈りを欠かした事はありません!教えに従って人々を導き、手を取り合って生きていました!」
挙句の果てには信仰心が足りないなんて言い出した。
当事者ではない以上、余計な口出しは控えるべきだと思うが、これ以上見ているだけで良いのだろうか………。
こういう時、タガミ先輩だったらどうするだろうか………。
「それでも主のご加護を賜れないとは、もしや、異教徒どもに魂を売ったのでは?」
「なんと!罪深い事この上なし!煉獄の炎でさえ、その罪は浄化出来ぬぞ!」
「異端者は裁かれねばならん………。」
「違います!そんな事はありません!」
「違うと言うのであれば示して見せよ、貴様の信仰を………。」
「真に敬虔な信徒であれば、主は御守り下さるはず。」
「異教徒に与したとあらば、即刻処刑するべきぞ!」
「どうして、どうしてそこまで疑うんですか!」
少なくとも先輩なら、こんな弱い者いじめみたいな真似をする奴らを止めない訳が無い。
「さっきから聞いてれば、言い過ぎだ!」
「なんだ、貴様は?」
抗議の声を上げた俺を、三人の修道士はギロリと睨む。
信徒でもない部外者だったとしても、アニエスと出会って間もない間柄だったとしても、これ以上理不尽から目を背けたくはない。
力が無くても、知識が無くても、それで諦めていたら先輩を助けるなんて夢のまた夢だ。
「この異端者を庇うなど、貴様も異端者か!」
「信仰無き者が語る言葉に耳を傾ける価値など無い………。」
しかし勢いで助けに入ったものの、具体的に反論して無関係を貫こうとする修道士たちを納得させられるだけの材料が無い。
かと言って前言撤回して引き下がると言う選択肢も無い。
どうしたものか………。
「それなら、まずは君たちの信仰を試させて貰おうか。」
「え?」
進むも退くもままならない状況は、教会の入り口から聞こえた声で打破された。
入り口に視線を向けると、そこには、先程街の入り口でジャックさんと親し気に話していた男、フリードが立っていた。