幕間:ラディウム公 中編
「いらっしゃいま、あ!この間の!」
ラディウム公が花屋に足を踏み入れると、以前助けた女が花の手入れをしていた。
来客に気が付いて笑顔で振り向くと恩人が立っており、驚愕の表情を浮かべる。
「先日は助かりました!」
「構わない。当然の事をしたまでだ。」
改めて感謝の言葉を告げられたが、ラディウム公は首を振って気にする事は無いといった振舞いでそれに答える。
「それで、その……」
「?」
「花!花を見繕ってはくれないか?」
「お花ですね!お任せ下さい!恩人さんの為に誠心誠意選ばせてもらいますね!」
しかし会話が続かずに困窮した彼は花を選んでほしいと彼女に頼む。
「で、花を買うだけで帰って来た、と。はぁ~~~……」
「ええい!そのように大きく溜め息を吐くな!」
「兄貴よぉ、もう少し頑張れねぇのか?例えば選んでもらった花をそのまま相手に送るとかよ。」
「!」
ランドルフに先ほどの話をすると呆れを隠さずに溜め息を吐きつつも、兄に助言をする。
その言葉を聞いたラディウム公は掌に拳をポンと置き、驚愕の表情を浮かべた。
「その手があったか!みてぇな顔してんじゃねぇ!つーかオレには運命だなんだと散々語ってたくせに、なんで本人相手には上手く話せねぇんだよ!」
「仕方がないだろう!緊張して上手く喋れないのだ!」
「だからあん時『レアン公のおっさんに社交界での立ち振る舞いってのを教えてもらえば良かったろ』って言っただろうが!」
「余計なお世話だ!そもそも相手は町娘だぞ!社交界とやらの振舞いが通じると思うなよ!」
「だとしても女性を相手にする機会はあったろうから多少は慣れる事だって出来ただろ!」
「女性慣れした男だと以前のナンパ男たちの様で彼女に悪感情を覚えられかねないと思うぞ。」
「なんでそう言う反論には頭が回るんだよ、この兄貴は……。とにかく!今のままじゃ多少恩のある客の一人で終わっちまうぞ!それが嫌ならもっと頑張れ!」
言い争い、もとい兄の不甲斐なさを責め立てるも、最後は激励の言葉と共に兄を部屋から蹴り出すランドルフ。
ラディウム公は追い出され、玉座の間へ向かう間に何か話題は無いかと頭を悩ませるのであった。
後日。
「や、やぁ。」
「恩人さん!いらっしゃいませ!」
「調子はどうか?」
「まぁ、相変わらずと言ったところですね。でも昔居た所と比べると沢山売れるので嬉しいですよ。それに恩人さんってば、わたしがサービスするって言ってるのに普通よりも多くお金を置いて行くんだから、助かりますけど申し訳ないですよ……。」
「私にとってはそれだけの価値があると考えるから相応の額を払っているだけだ。しかし迷惑、だっただろうか……?」
「迷惑ではありませんが、いつか何らかの形でお返しさせて下さい。」
「それなら……」
緊張を押し殺して平静を装い、会話をするラディウム公。
彼は昨日、必死に考えてきた話題を彼女に振る。
「それなら?」
「な……」
「な?」
「名前を、教えてはくれないか?」
「名前?」
彼女は一瞬キョトンとした表情を浮かべ、
「ふふ……あはははは!」
「な、何かおかしな事でも言っただろうか!?」
「いいえ、いいえ。そうですね。わたしは貴方の事を『恩人さん』って読んでますけど、お互いの名前も知りませんでしたよね。」
そして笑い出した。
その様子にラディウム公は慌てふためき、自身の発言に問題があったのかと尋ねる。
そして彼女は微笑みながら納得を露わにした。
「わたしはジェーン。貴方は?」
「ジェーン、良い名だ……。私の名はアルバート。またこうして遊びに来ても良いだろうか?もちろん花も買っていく。」
「いつでも歓迎しますよ。アルバートさん。」
女、ジェーンは笑顔で名乗り、男、アルバートもまた、それに見惚れつつ名を告げる。