オレは貴方を一生許せない
『差し伸べる手』の拠点で簡易的な宴が催されていた頃、ジュテームの街の片隅にある小屋の中で……
「悪ぃ、待たせたな。」
「だいぶ待ったぜ、叔父上。随分と遅かったが、何かあったのか?」
ランドルフとユーステッドが邂逅していた。
「なに、ちょっとばかり兄貴に会っててな。」
「父上に!?」
「そんで話が付いたんだよ。兄貴は退位、お前は次のラディウム公って訳だ。」
「そんな重要な話に、なんでオレを連れて行ってくれなかったんだ!」
「そんときゃお前がまだ来てなかったからな。それに脅しみてぇな事もしてたし、そんな所に連れてく訳にゃあいかねぇだろう。」
この邂逅の前にランドルフがラディウム公と話を、それも重要な話をしていた事を告げるとユーステッドは不満を露わにする。
ランドルフは落ち着いた様子で理由を語るが、それが余計に火に油を注いだ。
「尚の事だ!汚名を被る覚悟は出来ていた!この手を地に染める覚悟も!それを誰かに押し付けるつもりなど無かった!なのに何故!」
「別に汚名なんざとっくに被ってるし、切った張ったの騒ぎも一応は無かった。だがよ、良くやってるにしたってオメェはまだまだガキだ。大人がやらかしたってのに、そのケツをガキに拭かせるなんざ出来るかっての。」
激昂するユーステッド。
冷静に応じるランドルフ。
前者の声は小屋の中で響き渡り、後者の声は重みをもって揺るがない。
「最初から、最初からそのつもりだったのか?」
「あぁ、色々と動いてもらいはしたが、蹴りを付けるのはオレがやるつもりだった。社会勉強の範囲までは認めるが、それ以上は任せらんねぇ。」
「叔父上!」
「この件は悪かった、と言うつもりはねぇよ。強いて言うならこんな情勢にしちまった事に関する謝罪くらいだ。」
ユーステッドはフルフルと手を振るわせ、思い至った一つの可能性を問い掛ける。
決着は自分で付けるつもりだったのか、と。
その問いに頷き、謝罪したランドルフは逆に問い返す。
「それで、オメェはどうする?次期ラディウム公として、罪人をどう裁く?」
「叔父上……オレは貴方を一生許せない。」
「…………。」
「無辜の民を海賊に堕落させ、彼らを率いて公領に反旗を翻し、人々の安寧を奪った罪は大きい。」
ユーステッドは真っ直ぐにランドルフを見据え、彼の所業を羅列して腰元の剣に手を掛け……
「しかし、無用な争いを避け、領邦軍にほぼ被害を与える事なく投降させ、保護し、誤った政治を行った父上を除いた。故に、オレは叔父上を斬らない。いや、斬れない……。」
「随分と甘い裁定だな。」
「あぁ、オレはずっと兄上の事を甘い人間だと思っていた。だがオレも人の事は言えないようだ。どうしようもなく怒りを感じているのに、叔父上を斬れないのだから。」
同時に彼の功績を挙げ、それを引き抜く事なく手を離した。
自らの甘さを理解し、俯いて言葉を紡ぐ。
「もしかしたらオレの覚悟は口だけだったのかもな。実際に父上と対面した時に、斬る事は出来なかったかも知れない……。」
「必要だから、で誰かを、ましてや血の繋がった親を斬れるような奴はそういねぇよ。」
そんな彼の肩にランドルフはそっと手を置き、ユーステッドの在り方を肯定する。
甘さを、優しさを捨てられない甥を見つめる叔父の視線には、慈しみと喜びが込められていた。