過去への最大の贖罪
アルステッドは苦渋の表情を浮かべ、下した決断。
それは……
「父上、申し訳ありません……」
「アルステッド……貴様も、貴様も私を……」
「違う!違うのです父上!私は父上を」
「言わずともよい……ラディウム公爵家の家督はユーステッドに譲る。これで良いのだろう?」
「ご英断、感謝致します。」
自身の父親を、敬愛して従ってきた父親を除く事であった。
ラディウム公は落胆と悲しみと失望と、様々な感情を煮詰めたかのような表情でアルステッドの名を呟く。
その視線を受けた彼は取り乱し、弁明をしようとした。
しかしその前に言葉は遮られ、フリードの望んだ形で決着がついた。
「継承の儀は後日行う。私はもう疲れた、休ませてもらうぞ……」
「父上……私は……」
「アルステッド……」
先程激昂していた人物とは別人のようにやつれた顔つきでラディウム公は玉座の間を後にし、そこには俺たちだけが残された。
そしてアルステッドは虚空の玉座に向けて呆然と呟く。
その姿にどう声を掛ければ良いのか分からず、俺は何も言えなかった。
「済まない、少し一人にしてくれないか……。フリード殿、継承に関する話は後日頼む……。」
最悪の事態を防げれば……
何か役に立てるかも知れない……
双方納得とは言わずとも妥協できる落としどころに落ち着けられるかも知れない……
そう思っていた。
しかし実際のところは全く違った。
何も出来ず、傷跡を残す形で終わる様を見届けるしか出来なかった。
一応は当初の目的であった海賊騒動は解決する事は出来たのだろうが、何とも言えない後味の悪さを感じながら、アルステッドを残して俺たちはこの場を後にする事になるのであった。
「リョータ、君は悔いているようだね。」
「それは……こんな事になってしまったんだから悔いるに決まってる。」
「確かに時間を掛けてラディウム公が退位するまで待つのも一つの手段だったかも知れないね。でもその間、民は苦しみ続ける事になる。彼は部下や息子の声に耳を傾けない。ならば自ずと採るべき選択は定まるだろう。」
「それでも俺は……」
帰路の最中でフリードに内心を見透かされ、一瞬言葉に詰まるも素直に肯定する。
彼は選ぶべくして選んだと語るが、悩まずにはいられない。
「もしも罪の意識や悔恨を抱えているのであれば、尚の事未来をより良いものとするべく行動するべきだろう。過去は変えられないが未来は変えられるのだから、その行いこそが今への、そして過去への最大の贖罪になるんだよ。僕は常に自分の信じた最善を選び、未来をより良いものとしようとして来た。それはきっとかつてのラディウム公も同じだったのだろう。でも、自身の選択を信じながらも彼は立ち止まってしまった。最善を尽くし続けるのではなく停滞してしまったんだ。」
フリードの語った持論は厳しくもあり優しくもあった。
努力し続けなくてはならない、止まる事は出来ない。
しかし贖う事は出来る。
「さて、それでリョータはこれからどうする?」
自らの考えを語ったうえで、彼は俺に問い掛ける。
それならば俺は……