簒奪の様である
「私が罪人だと?ホーエンゼレル公の使者として、それをのたまうか。ならば貴様も拘束させてもらおう。ホーエンゼレル公にはこちらから使者を遣わして問い質させてもらう。衛兵!衛兵!この者らを捕らえよ!」
ラディウム公は大声で衛兵を呼び、フリードを捕まえるように命令する。
しかし……
「……どうした!衛兵!」
「おかしいとは思いませんでしたか?ランドルフ殿と問答をしている際に呼んだ衛兵も現れず、城の入口をアルステッド殿に通されたとはいえマデリン殿がここまで来られた事を。」
「…………。」
一向に衛兵が姿を現す事は無かった。
痺れを切らしたラディウム公は再び衛兵を呼びつけるが、それでも結果は変わらない。
フリードはラディウム公に暗に衛兵は来ない事を告げる。
「私を除いたとして、誰がラディウムの公位に就くと言うのだ?アルステッドは王としてマスカへ赴かねばならん。ランドルフは政治など理解していない粗忽者。他所の人間が転生者と密接に結びついたこのラディウムを治められる訳がない。」
「公爵閣下が意図的に候補に挙げなかった人物ですよ。」
「ユーステッドだと?確かにアルステッドが王位に就く以上、奴にも為政の何たるかを叩きこむ予定ではあったが、今の愚息に公位を継ぐ能力は無い。徒に領を混乱させるだけであろう。」
「領地の運営は何も一人で行うものではないでしょう。臣下を良く用い、時として外部の力を借りる。政治知識と同様に上に立つ人間に必要な素養ですよ。」
「貴様、ラディウム領を傀儡にするつもりか!」
自身を除いたところで領地を治められる人間がいないと主張するラディウム公と、ユーステッドに次期ラディウム公を任せようと考えているフリードが激論を交わす。
「待ってくれ!フリード殿、先程から何を言っているのだ!?これではまるで……」
「簒奪の様である、ですか?」
「……!」
フリードが何を考えているのかを理解したようで、慌ててアルステッドが待ったをかけた。
彼の無そうとしている事は半ば力尽くで父を公位から除こうとしているのだから。
「しかし公爵閣下がラディウム領を乱した事実は変わりません。ならば責任を取る必要があるでしょう。」
「だからと言って恫喝のような真似をせずとも良いではないか!」
「これまでも何度となく諫言を受けたはずです。しかしそれに耳を傾ける事なく悪政を続けるようでは致し方のない事でしょう。」
「しかし……!」
「次期国王陛下、民草の事をよく考えたご決断を願います。」
「私は……」
アルステッドが食い下がって反対するも、フリードは微笑みを浮かべたまま、どこか圧を感じさせる声色で彼を嗜める。