罪人は二人だけでは無い
「ふん、思い出したぞ。貴様は以前、直談判しに来た転生者だな?転生者が直々に話したい事があるからと耳を傾けた事はあったが、まるで無駄な時間であったな。」
グランマの話を耳にしてラディウム公は唾棄するように彼女を見やり、切り捨てるように回顧する。
そして続けて自らは間違っていないと語り始めた。
「そもそもそのような事は言われずとも理解している。だが貴様は優劣を付けず、全てを平等に扱うとでも言うのか?それは選択の放棄である。何かを選ぶと言う事は別の何かを選ばないと言う事なのだからな。そして私はこの領を治める領主として選択したまでに過ぎん。」
「その選択が極端過ぎるからこうなってるんだよ、公爵様。」
「私は私の考えに基づいて選択をしているまでだ。改める必要は無い。むしろ反抗的な者どもを排除で来たのだ。これで我が領の安寧は保たれたと言えるであろう。」
領主として自らは正しく、それこそが絶対の道であるとして聞く耳を持たない。
そして彼は疲れたかのように軽く息を吐き、玉座へと座り直す。
「いい加減この無意味な問答も時間の無駄であろう。ホーエンゼレル公の使者フリードよ。貴様の任であるアルステッドへの挨拶を済ませて早々に去るが良い。愚弟とそこな転生者は牢に入れ、犯した罪を償わせる。これでこの話は終わりだ。」
「公爵閣下、少々お待ちを。」
「なんだ?」
話を終わらせようとするラディウム公に対してフリードは待ったをかける。
「裁くべき罪人は果たして二人だけでしょうか?」
「何が言いたい?そこの男も貴様の部下であろう?ユーステッドと共に動いていたことは不問とする。連れて帰って良いぞ。」
「いえ、彼ではありませんよ。」
フリードは罪人は二人だけでは無いと言う。
ラディウム公はチラリと俺の方を見て罪には問わないと保証してくれたが、どうにもフリードはその事について話がしたい訳では無いようだ。
俺が以前ユーステッドと共に直接ラディウム公に話をしに来たこと、そして脱獄まがいの事をした事を咎められず、内心ホッとしていると、彼は眼前の人物をしっかりと見据えて口を開いた。
「公爵閣下、ラディウム公。この領地を適切に治める事が出来ていると言えるのでしょうか?悪政を行う為政者を、諫言に耳を傾ける事なく領地を乱した者を、まさしく罪人と見做すべきでは?」
問い掛けるように、当然の摂理を語るように、そう語った彼はいつもの余裕を感じさせる微笑みを浮かべ、しかしその眼は決して笑ってはいなかった。