転生者だけがこの世界に生きる住人じゃない
「やれやれ、老人を置いて先に行こうとするんじゃないよ。」
「グランマであればまだまだ若者には負けない壮健さだと思っていたので……」
「ふふっ、嬉しい事を言ってくれるねぇ。」
「なんだ貴様は!そもそも部外者が何故ここに入って来ている!」
グランマとアルステッドは緊迫した雰囲気に包まれた玉座の間にあっても和気藹々と話をする。
二人と再会する事が出来たのは喜ばしいが、同時に困惑から抜け出す事が出来ない。
そんな中ラディウム公はグランマに対して威圧しながら問いかける。
「それは私が通したからです。城内に入ってから叔父上たちが来ていると聞いて、居ても立ってもいられず彼女を置いて駈け出してしまいましたが……。」
「では何故その者を連れてきた?よもや貴様を救い出した者か?であれば相応の褒賞を出さなければな。」
「いえ、彼女は……」
グランマが何者であるか、その質問に対してアルステッドは言葉を濁す。
表情を和らげたラディウム公はアルステッドを助けた恩人の線で話を進めているが、一方の彼の反応からして恐らく違うのだろう。
先程も誘拐犯を『彼女』と称していたが、まさか……
「アルステッドを連れだしたのはわたしだよ。」
「……なんだと?」
グランマの説明を聞いたラディウム公は一瞬にして表情を険しくし、降ろしていた剣を再び構える。
「貴様が誘拐犯?どの面を下げてアルステッドを連れて戻って来た?よもや罪悪感にでも苛まれ出頭したなどと言わぬであろうな。であればそれに免じて痛みを感じる間もなくその首を刎ねてくれよう。」
「お待ち下さい父上!」
「ならん!そもそも貴様も何故罪人を庇い立てする!罪人には罰を与えるべきである!貴様も次期国王として心得よ!慈悲のみで国を治める事など出来ぬのだと!」
「しかし……!」
怒りを露わにしたラディウム公とグランマの間にアルステッドが割って入り、今にも切りかからんとしている彼をどうにか止める。
「言い争いはお止めと言っているだろう。わたしの罪を裁くのは何らおかしな話じゃないよ。ただね、アルステッドはあまりにも世の中を知らなさすぎる。」
「なんだと?私は奴に城下へ出て見聞を広める事を許している。だと言うのに世を知らぬだと?適当な事を言うでない!」
「いいや、あの子が見ていたのは『人々の生活』じゃなくて『転生者』だよ。」
「…………。」
「……我が領は転生者たちの知啓を用いる事によって繁栄を享受してきた。であれば転生者の営みを理解する事は重要であろう。」
グランマは自身を庇ってくれたアルステッドの肩に手を置いて前に出る。
彼女は自らの罪を認めたうえでラディウム公に苦言を呈した。
それに対してアルステッドは口を噤み、ラディウム公は反論するも、グランマは彼に突き付ける。
「転生者だけがこの世界に生きる住人じゃないんだよ。領主云々じゃなくて、一人の人間として、この世界の人たちを無視して良いと本気で思っているのかい。」
「…………。」
見ている世界の違い。
見たい世界の違い。
見るべき世界の違い。
それらの違いを。