言い争いはお止め
「忌々しい愚弟め!衛兵!衛兵!この不届き者をひっ捕らえよ!」
「おっと、流石にそれなら抵抗させてもらうぜ。オレは別に何も悪い事はしちゃいねぇんだからよ。」
「黙れ黙れ!アルステッドを少しでも傷つけてみろ、その首をこの手で刎ねてくれる!いいや、今この場で切り捨てて」
ラディウム公の怒りは頂点に達し、衛兵を呼び出し、玉座の傍に掛けてあった剣を引き抜いてランドルフと対峙する。
場の空気は緊迫し、どう動けば良いか分からずに固唾を飲む事しか出来ない。
流血沙汰は避けたいが、ここで割って入るだけの能力も発言力もなく、今はフリードの付き人と言う立場上ラディウム公を止めるためにランドルフに味方をする事も出来ない。
迷い、悩んでいる間にも一歩、また一歩とラディウム公がランドルフに近寄って行く。
遂には踏み込めば斬る事が出来る間合いにまで二人の距離は狭まり、戦いが始まる……
「待って下さい、父上!」
かに思われた。
しかし、それに待ったをかける存在が現れた。
「アルステッド!おぉ、無事であったか!」
その存在はアルステッド。
この場における争いの渦中の人物だった。
行方不明になっていたと思しき彼はギリギリのタイミングで玉座の間に現れたのだ。
アルステッドを目にしたラディウム公は剣を降ろして喜色満面で彼の下に駆け寄る。
「父上、ご心配をおかけしました。」
「良い、お前が無事に帰って来たのだ。それに勝る慶事は無い。それで、どこの誰に攫われていたのだ?今すぐに誘拐犯を捕らえて晒し首にするぞ。そこの愚弟か?奴が犯人か?」
「父上、落ち着いて下さい!」
ラディウム公はすぐにでも下手人を裁く為にアルステッドに話を聞こうとする。
しかもランドルフを犯人だと決めつけたうえで。
アルステッドはそんな父を制止して嗜める。
「確かにかどわかされはしましたが」
「やはり攫われたのだな!さぁ誰に攫われたか言うのだ!」
「だから落ち着いて下さいと言っているでしょう!彼女は決して悪意を以てそのような事をしたわけではありません!」
「悪意の有無など関係あるものか!貴様を誘拐した事実に変わりはない!であれば裁きが必要だ!」
「しかし……」
「言い争いはお止め、全てとは言わないけど、ラディウム公の言っている事は正しいよ。」
アルステッドがラディウム公に説明をしようにも変わらず落ち着かず、先走ろうとする。
悪意は無かったと伝えるも、それは関係ないと一蹴されてしまい、アルステッドも言葉を詰まらせてしまう。
このままラディウム公が暴走を続けるかに思われたが、彼の言葉を肯定しつつもアルステッドへの助け舟を出す存在が現れた。
「グ、グランマ!?」
玉座の間の外からゆっくりと歩いてきたのは、アルステッドと同じく行方不明になっていた俺たちの仲間、『グランマ』ことマデリンであった。