誰も何も知らん
噂を広めた日の、そしてグランマが行方知れずになった日の翌朝。
彼女がどこに行ってしまったか、その手がかりを手に入れる為に俺たちはラディウム公の城へと向かう。
そして城門の衛兵に話を聞いてみるが……
「ん?なんだ、お前たちは?」
「ちょっと聞きたい事があるんだけど、グランマ、いやマデリンって女性を知らないか?」
「身長はこれくらいで、かなり恰幅の良い体格をしてる。」
「昨日から帰ってこなくてー」
「どこに行ったかも分からないのー。」
「マデリン、なぁ……」
反応は芳しくない。
オルガノは身振り手振りでグランマの体系を説明し、イーリスとイーシャは彼女が行方不明であると言う事情を説明する。
衛兵は首をひねって考えるが、どうにも思い浮かばないようだ。
「たぶん毎日、ラディウム公に会いに来てたと思うんだけど……」
「毎日…………あぁ、あの老婆か。あの者の家族か?」
「家族……血が繋がってる訳じゃないし、家族ってよりは仲間だな。」
「でも一緒にくらしてるしー」
「家族でも間違ってないかもー。」
毎日訪れていた事を伝えると思い当たる節があったようで、衛兵は少し考えた後に思い出した。
しかし彼女と俺たちの関係性を尋ね、肝心の事を答えない衛兵。
それに痺れを切らしたオルガノが彼を問い詰める。
「それで、結局何か知ってるのか?」
「ふむ…………少し待っていろ。」
衛兵は城門から離れ、城内へと入っていく。
しばらくして彼が戻ってきたが……
「知らんな。」
「ほんとに何も分からないのか?」
「誰も何も知らん。さっさと帰れ。」
「なんだ、その態度」
「落ち着けオルガノ。」
ぶっきらぼうに知らないの一点張りだ。
最初から親切な態度では無かったが、殊更隔意を持って対応して来る。
その振舞いにオルガノは衛兵に突っかかろうとするが、羽交い締めにしてそれを止める。
俺も衛兵の態度には不信感を覚えるが、だからと言ってここで争いを始める訳にはいかない。
「だけど、こいつ」
「分かってる。何か隠してると思うし、もしかしたら何か情報を握ってるかも知れない。」
「だったら!」
「それでもここで暴れたって情報は手に入らないだろうし、逆に立場を悪くしかねないぞ!」
「……いったん、帰るぞ。」
憤ったオルガノをどうにか説得して落ち着かせる。
納得はしてないが、理解はしてくれたようで不満げな雰囲気を漂わせながらも引き下がってくれた。
衛兵は相も変わらず仏頂面でこちらに視線を向けるのみ。
彼から情報を引き出すのは無理そうだし、ここはオルガノの言うようにいったん帰るとしよう。
しかし一体どうしたものか……。