自然と広まっていくはず
「と言う訳なんだ。」
「噂、ねぇ……。」
フリードの手紙に記してあった頼まれごとを協力してもらおうと思い、ディヴェラからジュテームに、『差し伸べる手』の拠点に帰って皆に話をする。
「それじゃあ早速ー」
「今日から毎日広めるよー。」
「あぁ。」
「待ちな。あんたたち。」
俺の話を聞くや否や、イーリスたちが立ち上がり、噂を広めに出発しようとする。
しかしグランマだけは席に着いたまま、皆を呼び止める。
「どうしたグランマ?」
「こういうのにはやり方ってのがあるんだよ。」
「やり方?」
何事かと思い、皆がグランマの方へと振り向くと、彼女は嗜めるように語り出した。
「そうさ。何も毎日誰彼構わず吹聴して周るもんじゃないんだよ。いいかい、こういうのはね、最初に口の軽い子たちの何人かに聞こえるように話すんだ。そうすりゃ後は自然と広まっていくはずだよ。」
人差し指を立てながらグランマは噂の広め方を講義する。
彼女は積極的に動くよりも、ほんの少しだけ動いた方が効率的だと語った。
最後に『もっとも、ラディウム公が手を打たなければ、の話だがね。』と付け加えて。
「へー!そうなんだー!」
「グランマすごーい!」
「年の功だな。」
「なんか言ったかい、オルガノ?」
「なんでもない、です……。」
皆で感心していると、オルガノがボソッと余計な一言を呟き、グランマに睨まれる。
彼は萎縮して敬語を付け、顔を青くしながら前言を撤回する。
そこはせめて経験豊かとか言えばいいのに、何故藪を突いて蛇を出すのか。
しかし確かに能動的に広めて周っても、逆に怪しまれてしまう可能性もある。
ここはグランマの提示した方法で噂を広める方が良さそうだ。
「そうなると誰に広めるか……」
「んー、取り敢えずー」
「あたしたちは散歩しながら話してみるねー」
「北の市場でならー」
「良い感じかもー」
イーリスとイーシャは市場で会話して噂話を広めるようだ。
確かに人で賑わっている場所なら、自然と耳に入って噂が広まる可能性も高いだろう。
それなら俺は……
「オルガノ、俺たちはダイアンの店で食事でもしながら話してみるとしよう。」
「あいつの店か。分かった。」
食事処なら人が集まるだろうし、店主のダイアンも他の客との会話のネタに使いそうだ。
それに弟のライアンにも話すだろうし、そのライアンも噂を広めてくれるだろう。
あの兄弟ならこの街に住む他の転生者たちとも面識があるだろうし、口が堅い訳でもない。まぁ悪くはない人選だと思う。
そうと決まれば善は急げと、俺たちは早速行動を開始した。