サインをしてくれって頼まれた
「はぁ?どういう事だ?説明とかは書いてないのか?」
「噂話、なぁ……。しっかし、道理で手紙を書き始めてからオレに渡すまでの時間がやたらと短いと思ったぜ!」
ユーステッドは困惑しながら問いかけ、ランドルフは納得したように頷く。
しかし手紙を何度読もうとも、逆さにしても、裏を見ても、透かして見ても、それ以上の事は何処にも記されていない。
「作戦の詳細なんて、俺も知りたいくらいだよ。でも……」
何を考えて何をしようとしているのかは分からない。
しかしこの手紙を書いた人物が彼ならば……
「フリードの考えた策なら信じてやってみようと思う。」
「おいおい、本気で言ってんのか?」
「まぁオレはその策に乗らせてもらうぜ。」
「叔父上!?」
俺の意見にユーステッドは正気を疑うかの様な反応をするが、ランドルフも賛同した事に驚愕する。
ユーステッドはフリードの事を知らないのだから無理もないが、事ここに至っては信じてもらう他ない。
だが情報が少なすぎるのもまた事実。
俺はランドルフから少しでも情報を引き出そうと問い掛ける。
「そう言えばランドルフは他にフリードからは何か聞いていたり、頼まれている事ってあったりするか?」
もしかしたら手紙に記していないだけで策の痕跡があるかも知れない。
僅かな情報でもあれば、多少なりとも推理のしようがあるだろう。
「そうさなぁ、強いて言うなら……」
「強いて言うなら?」
「サインをしてくれって頼まれたくらいだな!」
「……サイン?」
「おうよ、契約の紙面って訳じゃねぇ、普通の紙に書いてくれって頼まれてよ。オレの直筆のものが必要だって言ってたな。まぁオレも昔は『海の覇者』なんて渾名が付けられるくらいには鳴らしてたし、ラディウム領近くの沿岸に領土を持つ連中だったら伝手もあるからな。」
あいつって有名人のサインを強請るようなミーハーな奴だったか?
そもそも無駄にそんな事は頼まない奴だと思うし、きっと俺には計り知れない何か意味があるのだろう。恐らく。
しかし逆に謎が深まってしまった。
結局、彼が何を考えてこの手紙を書き、何を考えてランドルフにサインを要求したのか。
「まぁ取り敢えず、その手紙に書いてあるように噂を広めりゃ良いんだろ?地方での活動なら任せとけ。」
「オレも叔父上を手伝うぜ。」
「分かった。それなら俺はジュテームに戻ってアルステッドたちにこの話を伝えるよ。」
フリードの策がどのようなものかは分からないが、彼を信じて俺たちは手紙に書かれた指示に従って動き始める。
この策で内戦の危機を遠ざける事が出来ると信じて。