噂話として広めておいてくれ
ユーステッドたちとの話し合いを終え、俺はすぐにフリードへと手紙を出した。
ラディウム領の実態、一部の現地民による海賊行為、不満を募らせる都市部の転生者たち、為政者であるラディウム公の在り方、それらを記した手紙を。
その手紙はランドルフが自ら届けに行くと言い、一週間が過ぎた。
彼曰く、『オレなら一番速く手紙を届けられるし、ホーエンゼレルには伝手もあるからすぐに話も付くはずだ。それにフリードって野郎の面も拝んでおきてぇからな。』との事だった。
そして……
「おう、戻ったぜ!」
「ランドルフ!どうだった?」
「ほれ、返事の手紙だ。」
以前ディヴェラに訪れた際に滞在していた酒場で手伝いをしているとランドルフが帰って来た。
ラディウム領から王都へ向かうのとホーエンゼレル領へ向かうのでは、それぞれの距離が違うとはいえ、想像以上に速い帰還に驚きを隠せない。
そんな俺の驚愕を気にした様子もなく、彼は返書を軽く放り投げて渡すと、フリードに対する印象を語り出した。
「それとフリードだが、若造のくせして中々に曲者って感じの野郎だったな。歳の割に場数を踏んでそうつーか、中身は見た目と違って老練の策士って雰囲気だったぜ。だがクソ野郎って訳でもなさそうだ。貴族の連中からはやっかまれてそうだが、引きずり降ろされてねぇってこたぁ能力もあるってこったろうし、この分なら期待してやっても良いかも知れねぇな!」
どうやら悪印象は抱いていないようで、むしろどちらかと言えば高評価すら言える意見を述べる。
ランドルフのように豪快な男が好感を抱くような性格ではないのではなかろうかと一瞬思うも、よくよく思い返せばジャックやゲーランといった豪放磊落とした人々と懇意にしていたのだからおかしい話でもないか。
それに胡散臭くもあるが、同時に明け透けに、遠慮なく、よく言えば素直に、悪く言えば歯に衣着せぬ物言いをするところもあるし、彼がフリードを好ましく感じたのも、よく考えてみれば理解できる。
そう考えながら手紙の封を切り、中身を読んでいると……
「リョータ、いるか……叔父上!もう帰って来たのか!」
「おうよ!で、中身は見てねぇが、なんて書いてあんだ?」
ユーステッドが訪ねて来てランドルフの帰還に驚く。
やはりランドルフはユーステッドの驚愕を気にする事なく、俺に返書の内容を問い掛ける。
「『一か月後にラディウム領へ行くから、それまでの間に領内でアルステッド殿が王位に就く情報を噂話として広めておいてくれ。』としか書かれてないんだが……」
しかし手紙には極めて短く、シンプルな指示しか書かれていないのであった。