樽からシスター
「それじゃあジャック、食堂で食い物と飲み物を用意して待ってるから、荷降ろしが終わったら来てくれ。」
「おう、分かったぜ。」
結局、ジャックさんは拠点の前で仲間たちに囲まれて歓迎を受け、解放されるまでに小一時間程の時間を要した。
「わりぃわりぃ、待たせたな。」
「いえ、凄い人気ですね。」
「だろ?これがカリスマってやつなのかも知れねぇな。」
「………荷物を降ろしましょうか。」
自分で言うのか、と言う言葉を飲み込み、作業に移る。
馬車に積まれていた荷物を降ろして拠点の中に片付けていくが、最後に馬車の中に残ったのは樽の人だった。
「ふあぁぁあ………。あれ?揺れてない?休憩ですか?」
「………。」
樽の人、今の今まで寝ていたのか。
よくそんな環境で眠り続けられたな。
「到着したんだけど。」
「本当ですか!もう出て良いんですね!」
「良いですよ。」
「やったー!」
到着した事を告げると大はしゃぎして外に出て良いか尋ねる。
レオノーラさんは許可を出すと樽が立ち上がる。
ずっと樽の中にいたので身体がバキバキだと思われるが、そんな事は関係ないと言わんばかりに立ち上がる。
どうやら底が無い樽を上から被せていたようで、上半身が樽、下半身が黒いロングスカートの新種の生物みたいな見た目になっている。
立ち上がった樽の人は前屈して樽を外した。
道中、ずっと樽の中から出てこなかったので、誰が入っていたのか分からない。
果たしてどんな人なんだろうか。
そして樽の中から出て来たのは、
「うーん、新鮮な空気が美味しいです!」
風に靡き、揺れる長い金髪。
陽光を映し、輝く碧眼。
素肌をあまり晒さない修道服に身を包んだ小柄な女性だった。
元居た世界では可愛らしい人の事を『お人形さんみたい』なんて表現するが、今その具体例を目にした気分だ。
「あ、リョータさんは直接顔を合わせるのは初めてですね!初めまして!私はアニエス!気軽にアニーって呼んで下さい!」
アニエスと名乗る女性はかなりテンションが高く、俺と握手をしたかと思えばブンブンと激しく手を動かす。
まぁ長い間、樽の中にいた後に陽の光を浴びれたらテンションも上がるだろう。
そう言う事にしておこう。
「ど、どうも。えーとアニエスは……」
「アニーって呼んで下さい!」
とりあえずテンションの事はスルーして、樽の中にいる事を知った時から気になっていた事を聞こうとする。
しかし呼ばれ方が気になったらしく訂正された。
初対面なのに距離感がおかしいのでは?と思うが、とりあえずそこは置いておくとして質問を続けよう。
「アニーはどうして樽の中に隠れなくちゃいけなかったんだ?」
「『ウハヤエ教』って聞いた事ありますか?」
アニエスはどこかで聞き覚えがあるような名前を口にして語り出した。