弟の事を頼んだぞ
「もう一度ディヴェラに向かおうと思う。」
「リョータ?」
「仮に俺が投獄されてからすぐにユーステッドが出発したとしても、大体一日程度の差だ。もしかしたら事を起こすまでに間に合うかも知れない。」
いくら現地民たちにも不満が溜まっているとはいえ、ユーステッドが声を掛けて即座に動く事は不可能だ。
行動を起こすにしても準備が必要となるし、ランドルフに話を通すだろう。
そしてランドルフは海に出ていて不在のはず。
ならば十分に間に合う可能性は存在する。
「しかし流石に危険では?」
「それにイーリスとイーシャも向こうにいるんだし、そこまで悪い事にはならない……と思いたい。」
「…………。」
アルステッドは僅かに眉尻を下げて不安げに俺を慮る。
オルガノは表情を変えず、こちらに視線を投げかける。
「気を付けろよ。」
「む、オルガノも賛成か。」
「現状、一番自由に動けるのは『差し伸べる手』の方々ですからね。」
そして短く一言だけ告げて賛成の意を表した。
アルステッドはそちらを見やって意外そうにすると、今度はベックもオルガノに続いて賛同した。
「ならば私も共に……」
「若様はダメです。」
「この緊急事態に私が動かずしてどうするか!」
「緊急事態だからこそ若様が軽々しく腰を上げてはいけないんですよ。というか、若様がこの街から離れたら誰が民衆を抑えるんですか。それと、そのような危険に身を投じる事は目付け役としては認められませんね。」
「し、しかし、私が動いてこそ周りも付いて来るのでは……」
「今回に関しては周りが勝手に動きそうになっていて困っているのでしょう。若様が動いたところで余計な波紋が広がるだけです。」
「むぅ…………」
俺がディヴェラに向かう流れになると、アルステッドは自身も同行すると言おうとしたが、その途中でベックから止められた。
実際、彼の言う事ももっともで、アルステッドにはジュテームに居てもらいたい。
オルガノでも抑えきれなくなりつつある転生者たちを抑えるには彼が必要不可欠なのだ。
それに万が一にも彼が殺されるなり捕まるなりしたら、それこそ転生者たちが動きかねない。
「俺からも頼む。この街にはアルステッドが必要なんだ。」
「……わかった。弟の事を頼んだぞ。」
「お気をつけて。」
「あぁ!」
俺の意見にアルステッドは一瞬、間をおいてから頷く。
続く言葉からは兄としてユーステッドの事を心配する想いが滲み出ていた。
話は終わり広場を離れ、俺とオルガノは『差し伸べる手』の拠点へ、アルステッドとベックは城へと戻る事となった。